一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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葉牡丹の白色化について

質問者:   大学生   ベニヤ板の化身
登録番号2580   登録日:2012-01-06
お正月シーズンということもあり、街で葉牡丹が飾られているのをよく目にします。
そんな折、葉牡丹を見て白い葉は一体どのような仕組みで白色化されるのか疑問に思い、調べてみたところ

「一定以下の低温に晒されてから出葉すると葉緑素が抜け、白やクリーム色、または紫、赤、桃色等に色づく。」(wikiより転載)

という記述を見つけたのですがなぜ低温処理により葉が脱色されるのでしょう?
低温処理によりクロロフィルの分解や合成阻害が起こるのでしょうか?

他にも花が白く見えるのは花弁表面の色素細胞の下にある海綿状細胞の小さな気泡に光が反射して白く見えるからだそうですが、葉牡丹も低温処理により細胞膜の一部がエンドサイトーシスにより取り込まれ細胞膜の周りに小胞が溜まるので同じように光の反射で白く見えたりもするのでしょうか。

回答宜しくお願いします。
ベニヤ板の化身 さん

ご質問をありがとうございます。

生物学専攻の学生さんにはご自分で探求していただくことを希望しますが、今回は、斑入りの遺伝などについて詳しい岡山大学資源植物科学研究所の坂本先生が、サンフランシスコに向かう飛行機の中で回答文を作成して下さいました。ご参考にして下さい。



【坂本先生からのご回答】
 ベニヤ板の化身さんのいうとおり、冬は葉牡丹がきれいですね。葉牡丹は朝顔と並んで江戸時代、明治時代から品種改良が行われた、日本が誇る園芸植物です。さて、ご質問の葉牡丹のように低温で葉が白くなる例は、比較的多く知られています。遺伝子の突然変異としても報告されており、例えば、イネでこのような変異体の苗を育てると、夜の低温で白くなり、日中は黄緑になるので横縞が入り、「ゼブラ」変異、と呼ばれます。低温で白化する理由は、例えば、光合成活性の低下が原因として考えられます。低温で白化する例が多いですが、他の例もあります。「ハンゲショウ(半化粧・半夏生)」は夏に葉が白化する、面白い植物です。また、最初は白い葉が、生長に伴って緑になる変異も良く知られており、「ヴィレッセント」と呼ばれています。

葉が白くなるのは、緑の部分もできるので、単純にクロロフィル合成の欠損とは考えられず、むしろ、正常な葉緑体が「プロプラスチド(葉緑体の前駆体)」から分化する、あるいは、正常な葉緑体が維持できないために分解するためです。根とか花弁のように、葉緑体がない細胞も生きることができるので(ただし、プラスチドはあります)、植物は「光合成をすると危険である」ことを感知すると、葉緑体を作ったり、維持することをやめてしまうようです。というのも、光合成を行うために植物は光エネルギーを吸収しますが、過剰な光はいつも葉緑体に悪さをして、活性酸素などが生じてしまい植物にダメージを与えます。植物はそのような「危機(活性酸素レベル)」を感知して、光合成を続けないように葉緑体をこれ以上作らなくしているようです。危機となる環境要因は低温以外にも考えられ、植物はそれらの危険性を何らかのシグナルとして感知し、葉緑体の分化をコントロールしているようです。温度だけでなく、夏の強い日差しや、ウイルスの感染などでも葉の色は変わりますよね。

葉牡丹の場合は、品種改良の結果、いろいろな突然変異を取り入れて、この葉緑体を維持するシステムが正常より弱くなっているために、低温で白くなると考えられます。ちなみに、葉ボタンが紫になる、というのも、葉緑体とは関係ないですが、植物が「危機」と感じて他の色素を作っているためと考えられます。ご質問にあった「海綿状細胞にある小さな気泡」というのは、海綿状細胞の中ではなくて、海綿状組織にある細胞間の空隙のことを指しているのではないでしょうか。海綿状組織には二酸化炭素を気孔から取り入れるための空隙がたくさんあり、そこを通過する光の散乱で白く光って見えることがあります。多肉植物では、このような理由で葉の一部が白っぽく見えることもあるようです。

坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-01-20
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