一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ズミの樹皮に含まれる黄色色素とは

質問者:   高校生   やま
登録番号2581   登録日:2012-01-07
はじめまして。

ズミ(バラ科リンゴ属)の樹皮に含まれる黄色色素とはどのような成分なのでしょうか。
以前から天然染料の色素に興味があり、独自に天然染料の材料となる植物の採集や購入をして染織や絵具を作ることを楽しんでいました。ズミもその中の一つなのですが、染織液を作るためにズミの枝を煮出しても薄い染織液にしかならず、同じ黄色染料のキハダやウコンとはまた違った印象がありました。
そこで、この印象の違いは色素が異なるためだと思い、ウコンやキハダ、ズミの色素について調べました。するとウコンやキハダの色素はクルクミンとベルベリンであることが解りました。特にクルクミンはアルカリによっては赤色になるということもわかり、色素を知ることは物質の性質を正しく理解することにも繋がるということが解りました。しかし、いくらズミの樹皮の色素について調べても黄色色素が抽出できるということまでしか書かれておらず色素の成分までたどり着けません。
バラ科リンゴ属ということなので、リンゴの皮と同じアントシアニンなのでしょうか。もし科やその他の植物の分類によって植物に含まれる主な色素に分別が可能でしたら、そちらの方も教えてください。
どうぞよろしくお願いします。
やま さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
牧野新日本植物図鑑によると、ズミは「染み」の意味で、その樹皮を染色に用いるため、と記載されています。古くから草木染め、特に黄色系染色に用いられていたようです。さて、その色素は何かとなると、信頼できる記載が少なく、ようやくBotanical Journal of the Linnean Societyという学術雑誌(英国リンネ協会出版)にMalus属の樹皮色素分析の論文が見つかりました(84巻31-39、1982)。この論文はMalus属をフェノール性化学成分の上から分類しようとする目的でなされたもので、草木染めの原因色素を決定しようとしたものではありませんが、ズミ樹皮は黄色染めに用いられることと考えあわせると、報告されているフェノール成分が原因色素となっていることは間違いのないことだと思います。Malus属のズミに固有の樹皮成分は3種ほどのジヒドロカルコンの配糖体、クエルセチンの配糖体であるとされています。カルコンはフラボノイド、アントシアニン生合成の中間物質で薄黄色から黄色の色素で、二次物質として蓄積する植物種は比較的限られています。その他にも、フラボン、フラボノールの配糖体、カテキン類も含まれていると記載されていますので、フラボノイド類がズミ樹皮煮汁の色素類と見られます。ただ、残念なことは、これらの物質の同定がペーパークロマトグラフィーを主とした分析法ですので精確な物質同定がなされていないことです。いろいろな呈色反応を使っていますのでおおよその同定は間違いないと思います。
植物に含まれる化学成分の比較分析から、植物を分類する「化学分類」という分野があります。関連する植物群の化学成分を詳細に比較検討するものですが、現在ではより本質的なDNA構造の微妙な違いで分類する手法がほぼ確立されていますので、「化学分類」はあまり話題にはなりません。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-01-20
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