一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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休眠とアブシシン酸

質問者:   教員   machi
登録番号2582   登録日:2012-01-09
入試問題の中に、受精後40日で成熟する種子についてのデータがありました。その解釈に困っています。受精後8日から40日の間の様々な時期の種子の胚に含まれるアブシシン酸量を測定し、その胚をアブシシン酸を含まない寒天培地で培養し胚の成長がみられるかどうかを調べたものでした。アブシシン酸の量はだんだん増加しその後急激に減少していました。アブシシン酸の量は減少してもしばらくその効果が続くということが考察されていましたが、どういうことなのでしょうか。また、そのような実験をしている実際のケースがあったらおしえてください。
machi 様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ご質問だけからでは、取り上げられた入試問題のはっきりとした内容が把握できませんが、察するに、この問題は実験データを示して、そこからどんな結論が引き出せるかを問うものではないでしょうか。恐らく問題の作成者は誰かの論文のデータを参考にされていると思いますので、そのような実験があるのでしょう。教科書に記載されている休眠とABAとの一般論的な関係では説明出来ない実験データなのかもしれませんが、問題を読んで見ないかぎり何ともいえません。どの植物の種子胚なのかもわかりませんし。もしそうであっても生物の現象には例外はつきものですから,不思議ではありません。そういう現象に基づく問題が作られても良いのではないでしょうか。いずれにしろ、ここでは一般論として説明します。つまり、多く用いられた植物について得られた実験結果から得られる典型的な例(教科書にのるような)として説明しますので、それで判断して下さい。植物の胚発生(種子形成)の過程でABAが関与してくるのは初期胚が成長を続けて、貯蔵物質の蓄積がおこり、乾燥耐性の獲得とともに成長が停止して休眠に入るまでです。種子の観点からいうと、種子(胚を含めて)が完熟するまでは登熟期と呼んでいますが、ABAはこの時期に徐々に増加します。そのABAは母株由来の細胞や種皮で合成されて胚に転流されるものです。ABA含量は登熟期に一度ピークに達します。この時期のABAは胚の胎生発芽の抑制に役立つ他、貯蔵物質の蓄積(合成)に必要です。ABAはそこから減少しますが、胚発生後期にもう一度蓄積含量のピークがみられます。このときのABAは胚由来の細胞で合成され、完熟胚の休眠や、疎水性のLEAタンパク質の遺伝子の発現を誘導します。質問の中で「アブシシン酸の量は減少してもしばらくその効果が続く」と書いてありますが、つまり、培地上での胚の成長が見られないという事でしょうか。成長は培地に置いて何日後に測定しているのでしょうか。その時間が長いと胚自体によるABA合成が始まって成長が抑えられる結果となっているのかもしれません。御存知でしょうが、種子胚の成長は促進ホルモンとしてジベレリンが関与している場合も多いので、その実験系ではどうなっているのかも気になります。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-02-16
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