一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ウツボカズラの花の仕組みを教えてください。

質問者:   一般   EMU
登録番号2585   登録日:2012-01-12
いつもご指導ありがとうございます。
雌雄異株のウツボカズラの、花の仕組みを教えていただきたいのです。
雄花・雌花の判別は出来ます(のつもりです)。
雄花は、合着した花糸の先に葯がつきますね。雌花は、子房を包んだ突起があるのが特徴だと思っています。
その下にあるものは、花弁でしょうか、ガクとかホウという部分になるのでしょうか。花びらにしてはしっかりしすぎている気がします。
開花中の総状の雄花、花序の中で一番元気のいい部分には、蜜が見られます。しかし、その蜜がどこから出ているのかが判別できません。
花弁状のものからにじみ出ているのか、あるいは、花糸の付け根部分から出しているのか・・・
書籍を調べてみたのですが、その答えを得ることができませんでした。
ご指導いただけると、うれしいのですが。よろしくお願い申し上げます。
EMU様

質問コーナーへのご質問ありがとうございます。総合研究大学院大学生命科学研究科基礎生物学専攻博士課程で食虫植物の研究をしている福島健児先生に回答いただきました。



【福島先生からのご回答】
EMU様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。ウツボカズラ(Nepenthes)の仲間を見かけると、ついつい捕虫袋に目が行ってしまうものです が、花も変わった形をしていますね。

さて、最初は、雄蕊や雌蕊の下(周り)にあるものは何か、とのご質問ですが、あれは花被片と呼ばれる器官です。花被の説明の前に、花の構造につい て解説しましょう。通常、真正双子葉植物の花は、内側から1.雌蕊、2.雄蕊、3.花弁、4.萼片という順番で並んでいます。そして、その花を支 えている花柄の根本につく葉が苞葉です。苞葉は、植物種によってあったりなかったりします。また、ウツボカズラは雌雄異株ですので、株ごとに雄蕊か雌蕊 のどちらか一方しか作りません。

花弁と萼片は、植物種によっては見分けがつきにくいことがあります。そういった場合は、花弁に相当する部分(内花被片)と萼片に相当する部分(外花被片)をひとまとめにして花被片という呼び方をします。ウツボカズラの花には、この花被片が3〜4枚あります。

二つ目のご質問は、雄花の蜜がどこから来るのか、ですね。おそらく、花被片の上(表側)にある分泌腺によって生産された蜜でしょう。植物の表面に目を凝らすと、しばしばやっと見える程度の毛やつぶつぶした構造を観察することができます。ウツボカズラの花被片の表側にも、模様のようなつぶつぶが見つかるはずです。そのつぶつぶ構造のひとつひとつが、表皮細胞に埋め込まれた分泌細胞のかたまりです。Subramentamと Narayana (1970)は、Nepenthes khasianaの花を詳しく調べて、多数の分泌細胞を発見しています。花被の表側にある分泌細胞の他に、花被の裏側、雄蕊、雌蕊には、多細胞の腺毛状突起があるようです。こちらの腺毛状突起は匂い物質などを作っているのかもしれませんが、表皮に埋め込まれた分泌細胞と同じように蜜を分泌している可能性もあります。

ウツボカズラの花は虫媒ですので、昆虫にうまく花粉を運んでもらえるように蜜を用意しているのでしょう。Clark (2001)によると、ハエやカ、ガ、ハチ、チョウの仲間がウツボカズラの花を訪れるようです。

福島 健児(総合研究大学院大学)
JSPP広報委員長、基礎生物学研究所
長谷部 光泰
回答日:2012-01-20