質問者:
教員
まさあき
登録番号2586
登録日:2012-01-19
数研出版発行の教科書「改訂版 高等学校 生物Ⅰ」(238ページ)欄外に、頂芽優勢について以下の補足説明があります。みんなのひろば
頂芽優勢におけるオーキシンとサイトカイニンの関係について
『芽の成長自体は根から送られるサイトカイニンによって促進される。頂芽を切り取ると側芽のオーキシン濃度が上昇し、サイトカイニンが高濃度のオーキシンのところに移動して側芽の成長を促すことが明らかになり、現在ではサイトカイニンも頂芽優勢に関与していると考えられている』とあります。この補足説明では、『オーキシンが高濃度含まれる芽に、サイトカイニンが移動し、芽の発達を促進する』ことになると思います。この考え方で、頂芽を切除した場合を解釈すると
『①頂芽を切除する→②側芽のオーキシン濃度が高まる→③その側芽にサイトカイニンが集まる→④側芽が成長する』となると思います。
しかし、本質問コーナーの頂芽優勢の仕組みについての回答(登録番号1913、2465)を拝見すると、頂芽優勢のしくみとして『頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の部分で、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している』と読み取れ、教科書の解釈とは異なります。この考え方で、頂芽を切除した場合を解釈すると
『①頂芽を切除する→②側芽のオーキシン濃度が低くなる→③その側芽でのサイトカイニン合成を促進する→④側芽が成長する』となると思います。
私としては、後者の方が理にかなっていると思うのですが…
頂芽優勢についてのオーキシンとサイトカイニンの関係について、どのように考えればよいでしょうか。ご教示いただければ幸いです。
ちなみに「生物Ⅰ」の教科書に・14fbについて、数研出版以外の5社のものを調べましたが、いずれも頂芽優勢におけるオーキシンとサイトカイニンの関係について詳細な記載はありませんでした。よろしくお願い致します。
まさあき さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
生物学では対象とする事象の範囲がたいへん広いので、一人ですべてをカバーすることは困難なことだと思います。そこで、教科書、参考書やその他の情報が重要な参考資料になるはずなのですが、教科書、参考書には、その後の進展の結果に基づかない「古い解釈、知見」のままを定説としたり、「誤解」や「理解不足」のためと思われる明らかな誤りを記載したりする部分が少なくありません。ご質問に引用されている教科書の「補足説明」なるものは(ここに引用されている文言通りであるなら)その一例と言えます。腋芽(側芽)に働くサイトカイニンの起源については最近(10年も前のことですが)の知見ですのでやむを得ない記載としても、腋芽(側芽)におけるオーキシン濃度の上昇についてはどこに根拠があるのか、私どもでは理解しかねるものです。
まず、最初にお答えしますと、このコーナー1913及び2465の内容が現在、頂芽優勢について理解されているものです。2465の回答をされた名古屋大学の森 仁志先生に、さらに付け加えることがあるかどうか伺ったところ「ありません」と言うことでしたが、次のような有益なコメントをいただきました。ご参考になさってください。
【森先生のコメント】
頂芽優勢におけるオーキシンとサイトカイニンの関係に関する情報としては、登録番号1913と2465以上のことを特段付け加える必要はありません。
さて、登録番号1913と2465を読んでいただけばいいのですが、少し補足いたします。まさあき さんの『頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の部分で、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している』というところですが、「側芽の部分」でオーキシンがサイトカイニン合成を抑制しているのではなく、「茎(あるいは側芽の付いている節)の部分」でサイトカイニン合成を抑制しています。仮に「オーキシンが、側芽の部分で、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している」のならば、頂芽切除後に側芽に直接オーキシンを投与すれば、サイトカイニン合成は抑制されてもいいはずです。しかし、そのようにはなりません。頂芽を切除した切り口にオーキシンを投与した場合のみ、頂芽優勢は維持されます。頂芽優勢の維持にはオーキシンが茎を流れていることが必要です。頂芽切除後、茎で合成されたサイトカイニンが休眠側芽に供給され、側芽の休眠は打破され成長するようになります。また、『①頂芽を切除する→②側芽のオーキシン濃度が低くなる→③その側芽でのサイトカイニン合成を促進する→④側芽が成長する』というところですが、頂芽を切除することによって、側芽のオーキシン濃度が低くなるわけではありません。もともと頂芽で合成されたオーキシンは、側芽には供給されませんし、休眠している側芽のオーキシン含量は高くありません。
また、サイトカイニンは根で多く合成されていますが、頂芽切除後は、茎で一過的に作られたサイトカイニンが休眠側芽に供給されます。根から供給されるサイトカイニンが必要ないことは、根を取り除いた茎だけでも側芽の休眠が打破されることから分かります。
森 仁志(名古屋大学生命農学研究科)
現段階では、頂芽から極性移動してくるオーキシンの流れが、腋芽基部の節(茎)におけるサイトカイニンの合成を抑制している、オーキシンの流れがなくなる(少なくなる)とサイトカイニン合成が開始して、腋芽成長がはじまる、と言う仕組みの理解にとどまっています。しかし、他の活性物質も関係あることが指摘されていますので、今後の研究の展開によってはもう少し複雑な仕組みがあることになるかもしれません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
生物学では対象とする事象の範囲がたいへん広いので、一人ですべてをカバーすることは困難なことだと思います。そこで、教科書、参考書やその他の情報が重要な参考資料になるはずなのですが、教科書、参考書には、その後の進展の結果に基づかない「古い解釈、知見」のままを定説としたり、「誤解」や「理解不足」のためと思われる明らかな誤りを記載したりする部分が少なくありません。ご質問に引用されている教科書の「補足説明」なるものは(ここに引用されている文言通りであるなら)その一例と言えます。腋芽(側芽)に働くサイトカイニンの起源については最近(10年も前のことですが)の知見ですのでやむを得ない記載としても、腋芽(側芽)におけるオーキシン濃度の上昇についてはどこに根拠があるのか、私どもでは理解しかねるものです。
まず、最初にお答えしますと、このコーナー1913及び2465の内容が現在、頂芽優勢について理解されているものです。2465の回答をされた名古屋大学の森 仁志先生に、さらに付け加えることがあるかどうか伺ったところ「ありません」と言うことでしたが、次のような有益なコメントをいただきました。ご参考になさってください。
【森先生のコメント】
頂芽優勢におけるオーキシンとサイトカイニンの関係に関する情報としては、登録番号1913と2465以上のことを特段付け加える必要はありません。
さて、登録番号1913と2465を読んでいただけばいいのですが、少し補足いたします。まさあき さんの『頂芽で合成されるオーキシンが、側芽の部分で、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している』というところですが、「側芽の部分」でオーキシンがサイトカイニン合成を抑制しているのではなく、「茎(あるいは側芽の付いている節)の部分」でサイトカイニン合成を抑制しています。仮に「オーキシンが、側芽の部分で、側芽の成長を促進するサイトカイニンの合成を抑制している」のならば、頂芽切除後に側芽に直接オーキシンを投与すれば、サイトカイニン合成は抑制されてもいいはずです。しかし、そのようにはなりません。頂芽を切除した切り口にオーキシンを投与した場合のみ、頂芽優勢は維持されます。頂芽優勢の維持にはオーキシンが茎を流れていることが必要です。頂芽切除後、茎で合成されたサイトカイニンが休眠側芽に供給され、側芽の休眠は打破され成長するようになります。また、『①頂芽を切除する→②側芽のオーキシン濃度が低くなる→③その側芽でのサイトカイニン合成を促進する→④側芽が成長する』というところですが、頂芽を切除することによって、側芽のオーキシン濃度が低くなるわけではありません。もともと頂芽で合成されたオーキシンは、側芽には供給されませんし、休眠している側芽のオーキシン含量は高くありません。
また、サイトカイニンは根で多く合成されていますが、頂芽切除後は、茎で一過的に作られたサイトカイニンが休眠側芽に供給されます。根から供給されるサイトカイニンが必要ないことは、根を取り除いた茎だけでも側芽の休眠が打破されることから分かります。
森 仁志(名古屋大学生命農学研究科)
現段階では、頂芽から極性移動してくるオーキシンの流れが、腋芽基部の節(茎)におけるサイトカイニンの合成を抑制している、オーキシンの流れがなくなる(少なくなる)とサイトカイニン合成が開始して、腋芽成長がはじまる、と言う仕組みの理解にとどまっています。しかし、他の活性物質も関係あることが指摘されていますので、今後の研究の展開によってはもう少し複雑な仕組みがあることになるかもしれません。
今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-01-26
今関 英雅
回答日:2012-01-26