一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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尿素分子が細胞内に入る理由

質問者:   高校生   ミスチル
登録番号2588   登録日:2012-01-20
先日の授業で、植物細胞を尿素溶液に浸すと、原形質の体積は一旦小さくなるが、時間が経つと元の大きさに戻ると習いました。
理由は、尿素分子が時間が経つにつれて細胞内に入り、浸透圧が高くなり、水分子が戻るということはわかりました。しかしなぜ、尿素分子が細胞内に入ってくるのですか。水分子が外に出るので、外液と細胞内のモル濃度は等しくなり、能動輸送でしか尿素分子は入ってこれないのではないですか。
ミスチルさん

 質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。さて、ご質問に際しては、先の関連質問(登録番号1999)への回答を読んでいただいているとは思いますので、ここでは物質の細胞膜透過についての一般的な説明を致します。物質が細胞膜を透過できる方法は大きき分けて2通りあります。1つは質問にも書いてあるように能動輸送であり、もう1つは受動輸送です。前者はエネルギー(ATP)を使って特定の物質を濃度勾配に逆らってポンプのように輸送します。後者には3種類あります。第一は物理的な移動で拡散と呼ばれます。つまり、濃度の濃い方から薄いほうへ分子が拡散して行く方式です。第二はチャネルという特定の物質だけを通すタンパク質でできた特定の通路を通るもの。水分子が細胞膜を通り易いのは、アクアポリンと呼ばれるタンパク質でできた水チャネルがあるからです。2003年米国デューク大学のピーター・アグレ博士はこの研究でノーベル化学賞を受賞しています。最後の1つはある種の酵素の様な働きをするタンパク質の担体で輸送される場合です。チャネルと担体による輸送は促進拡散とも呼ばれています。ところで、お分かりのように能動輸送や促進拡散には細胞膜を通過して内外に通じるタンパク質の通路ができています。これに対して普通の拡散は細胞膜にしみ込んで分子が拡散して行くことになります。しかし、細胞膜は半透性なので全ての分子が同じ様な早さで膜を通過する事は出来ません。早さを決めるのは1つは分子のサイズ・形であり、もう1つは分子が水に溶け易いか(親水性/疎水性)、油に溶け易いか(親脂性/疎水性)という性質です。実験によると、分子の油(有機溶媒)への溶け易さと、細胞膜透過性との間には正の相関がある事が分かっています。つまり、親脂性分子程早く細胞膜を透過できます。教科書で習ったことと思いますが、細胞膜はリン脂質の二重層から出来ていますので、親脂性分子は細胞膜に馴染み易いのです。さて、尿素ですが、この分子は特に親脂性物質という訳ではありませんが、糖類ほど親水性ではありません。尿素の分子の酸素を硫黄で置き換えたチオ尿素はもっと親脂性で、したがって膜透過ももっと早いです。なお、尿素は能動輸送はされません。拡散によって膜を透過します。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-02-15
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