一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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学名の理解の仕方

質問者:   公務員   fhan0112
登録番号2590   登録日:2012-01-24
お世話になっています。
いつもこのコーナーを利用させていただいております。
今回は、学名についてご教授願います。
ヤマツツジの学名は、
Rhododendron kaempferi Planch.
(R.indicum (L) Sweet var kaempferi (Planch) Maxim.;
R.obtusum (Lindl) Planch. var kaempferi (plamch) E.Hwilson
と新訂 原色樹木大図鑑(北隆館)に記載されていますが、この学名をどのように理解すればよろしいのでしょうか?

現在の学名が命名される以前のヤマツツジは、R.indicum (L) Sweet var kaempferi (Planch) Maxim.とR.obtusum (Lindl) Planch. var kaempferi (plamch) E.Hwilson
の二つに分かれていたが、Planchさんがこの二つ種類は同じであると主張し、 Rhododendron kaempferi Planchと正式な学名を付けた。

次に、R.indicum (L) Sweet var kaempferi (Planch) Maxim.の理解の仕方ですが、ヤマツツジを LindlさんがR.indicumと呼んでいたが、正式に学名を付けたのはSweetさんである。その後、PlanchさんがR.indicumのkaempferiという変種あると主張していたが、それを受けてMaximさんが正式に命名した。

という理解でよろしいのでしょうか

最後に、括弧書きの氏名の意味ですが、最初に学名を命名したが、その後に括弧書きのない人が訂正したということか、それとも、正式に命名はしていないけれど、そのように主張していたものを括弧書きのない人が正式に命名したということなのか、どちらでしょうか? それとも両方の可能性があるのでしょうか?

よろしくお願いします。
fhan0112様

ご質問承りました。学名はその植物の研究の歴史を垣間見ることができて楽しいものです。

原色樹木大図鑑は手元にないので見ていませんが、日本植物誌DB(http://foj.c.u-tokyo.ac.jp/gbif/ja/)によると、

Rhododendron kaempferi Planch.
(R. indicum (L.) Sweet var. kaempferi (Planch.) Maxim.; R. obtusum (Lindl.) Planch. var. kaempferi (Planch.) E. Wilson)
なのではないかと思います。

Rhododendron kaempferi Planch.
Planchonさん(1823-1888)はヤマツツジを独立種としてRhododendron kaempferiと命名した。

R. indicum (L.) Sweet var. kaempferi (Planch.) Maxim.
Linnaeus さん(1707-1778)はRhododendronとは違う属名でヤマツツジに似た植物をindicumと名付けた。Sweetさん(1783-1835)はLinnaeusさんの属ではなくRhododendron属にindicumが属すると考え、Rhdodendron indicumという名前にした。Maximowicz(1827-1891)は、PlanchonさんがRhododendron kaempferi Planch.と名付けたヤマツツジはRhododendron indicumの変種だと考えて、R. indicum (L.) Sweet var. kaempferi (Planch.) Maxim.という学名を提唱した。

R. obtusum (Lindl.) Planch. var. kaempferi (Planch.) E. Wilson
Lindleyさん(1799-1865)はRhododendronとは違う属名でヤマツツジに似た植物をobtusumと名付けた。PlanchonさんはLindleyさんの属ではなくRhododendron属にobtusumが属すると考え、Rhododendron obtusumという名前にした。Ernest Henry Wilsonさん(1876-1930)は、PlanchonさんがRhododendron kaempferi Planch.と名付けたヤマツツジはRhododendron obtusumの変種だと考えて、R. obtusum (Lindl.) Planch. var. kaempferi (Planch.) E. Wilsonという学名を提唱した。

そして、原色樹木大図鑑では、筆者がヤマツツジはRhododendron indicumやRhododendron obtusumの変種ではなく、独立種であると考え、Rhododendron kaempferi Planch.の学名を採用した。

これまでは、形からどの種類がどの種類に近いかを判断していたので、はっきりとした結論が出ず、いろいろな学名が提唱されてきました。最近では、遺伝子の解析によって種間の系統関係が推定可能になってきましたので、学名を1つに確定することは可能です。ただ、種間の系統関係を推定するには、ヤマツツジだけではなく、近縁種も含めて多くの種の遺伝子解析をせねばならず、そのためには莫大なお金(数億円)と時間(数年)がかかりますので、現実的には学名が1つに確定することは当分無いと思います。
JSPP広報委員長、基礎生物学研究所
長谷部 光泰
回答日:2012-02-15
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