一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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電照栽培について

質問者:   教員   キーロン
登録番号2597   登録日:2012-02-15
良くキクで電照栽培をしています。資料を読んだら8月頃に咲く小菊を9月の彼岸に咲かせるためには5〜6月頃に1日4〜5時間も電灯をつけると書いてありました。花芽というのはそんなに前から出来るのでしょうか。また5〜7月頃は夏と違って日によって気温の上がり下がりがあります。花は気温によっても開花が促進されると思うのですが、そのような環境であれば開花時期がかなりずれたりしないのでしょうか。それともキクの開花や花芽ができるのはあまり気温に左右されないのでしょうか。また5〜6月に4〜5時間も照射して1ヶ月ぐらい開花を遅らせていますが、5〜6月の日長の差は1時間も差がないと思います。なぜこんなに長い間照射する必要があるのですか。教えてください。
キーロン 様

ご質問をありがとうございます。
この質問に関しては、花芽形成の仕組みについて研究されている京都大学の荒木先生に回答文をご用意いただきましたので参考になさって下さい。なお、本コーナーでは光周性に関する質問がたびたび扱われており、特に#1328は電照菊についてのQ/Aになっております。それらの方もご参考にして下さい。電照栽培により年中出荷されているキクは、荒木先生が書かれている「限界日長」の長い特別な品種のようですね。


【荒木先生からの回答】
ご質問の中で「8月頃に咲く小菊」とされているものは、「夏秋(かしゅう)ギク」という品種群に属するものと思います。キクは一般に日長がある長さ(「限界日長」と呼びます)よりも短い場合に花芽の形成が促進される「短日(たんじつ)植物」です。夏秋ギクの場合には、限界日長は晩成品種では16時間程度、早生品種では17時間以上で、最も日長が長い夏至であっても花芽の形成がおこります。したがって、春に栽培を始めるとほどなく花芽形成を始めてしまうことになります。そこで「電照」をおこなって日長を大幅に伸ばすことで、電照をおこなっている期間、花芽の形成を抑制します。電照を打ち切ると、その時点の自然の日長は夏秋ギクの限界日長より短いですから、花芽の形成が開始されます。このように、電照を打ち切る時期によって花芽形成の開始時期が決まりますから、収穫・出荷したい時期をもとに電照を打ち切る時期を決めることになります。

さて、ご質問の件ですが、大事なポイントは、電照は、花芽の形成を始めさせないためにおこなっているということです。花芽は電照を打ち切ったのちに形成され始めるので、夏頃ということになるでしょうか。 温度の影響に関しては、花芽の形成と成長に比較的高い温度(15度以上)を必要とする場合が多いようです。電照を打ち切る時期には、もうかなり暖かくなっています。

電照時間ですが、深夜0時を中心に3〜4時間の照明をおこなうことが一般的のようです。日長を伸ばす、というのならば、日没時から電照を開始するのが適当であると思われるかもしれませんが、日没時の電照よりも深夜の電照の方が、花芽の形成を抑制する効果が大きいことがわかっており、そのようにされています。照明時間の長さも、花芽の形成を確実に抑制できることと電力消費をなるべく小さくすることの兼ね合いから、経験的に決められてきたものです。

荒木 崇(京都大学大学院生命科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2012-03-07
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