一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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微生物による水素発生方法について

質問者:   会社員   福本
登録番号0261   登録日:2005-05-31
初歩的な質問かもしれませんがいくつか質問させてください。

・微生物による水素発生方法として水素発生菌とか光合成細菌などがありますが原理など解りやすくまとめられている本はあるのでしょうか?
・実際に水素発生させるにはどういった機材が最低限必要なのでしょうが?
・微生物電池というものを最近聞くのですがこれはどういった原理なのでしょうか?
・微生物による水素発生を扱った展示会や講演会はあるのでしょうか?

植物と関係ないかもしれませんがよろしくお願いします。

福本さん:

燃料電池の「燃料」として水素が注目されていますが、その実用化についてはなお幾つか解決しなければならない問題があります。「水を電気分解すれば水素と酸素が得られる」ことは高等学校までの理科で習っていることですが、「水の電気分解で水素を得て、燃料電池に使用する」のでは電気分解に使う電気はどうやって手に入れるのか、が問題になり省エネルギーの観点から意味がありません。大量のエネルギーを使わないで水素を製造する技術として、触媒を使って天然ガスから水素を製造することがかなり進んでいるようです。
一方では水素発生能をもつ微生物を利用する技術開発が真剣に考えられていますが「試験研究段階」にあるのが現状です。微生物による水素発生を専門に研究されている早稲田大学の桜井英博先生から以下のような回答を頂きましが、まだ試験研究段階ですので、原理、技術など「これで行こう」という最善のものが決まっていないようです。ですから、桜井先生の解説を参考にしながらご自分で、あげられたホームページや解説書(といってもかなり専門的なものしかないようですが)で調べるようにして下さい。


(2005.5.28)
回答:微生物による水素発生方法についての質問に対し

前回の回答(質問コーナーの0244の質問)にも関連しますが、この分野の研究をどのように進めるべきかについて国内外で定まった方針はまだありません。私の立場は、「再生可能エネルギーの創成は地球環境保全にとって重要な課題であるが、ある反応系が実用化できるかどうかは経済性の面から評価しなければならない」というものであり、ラン色細菌を利用した方式を提案しています。他の方法でも水素は生産できるが、量的あるいは経済性の面から見て私にはほとんど興味がありません。従って、この回答もそのような立場からのものであることを了解してください。

[質問内容]
>>初歩的な質問かもしれませんがいくつか質問させてください。
>>微生物による水素発生方法として水素発生菌とか光合成細菌などがありますが原理など解りやすくまとめられている本はあるのでしょうか?

[回答1]
1)バイオマスハンドブック(オーム社)
(財)日本エネルギー学会編(2002) 11,000円(税別)
第3部5章嫌気発酵による水素生産、第6章光合成による水素生産
2)他にInternetで検索すると次の本が見つかりますが高価です
「水素利用技術集成:製造・貯蔵・エネルギー利用」       
ISBN4-86043-037-9 C3043 (2003.11).¥49,560 90 578p. NTS社
 http://www.nts-book.co.jp.
8章 光合成細菌を利用したバイオ水素
 嫌気・光条件下で光合成を行う菌であるが、窒素源制限下で水素を発生する(主に紅色非硫黄細菌)。低級脂肪酸を好んで資化する。嫌気性菌との混合培養で、水素発生を検討している。示適光強度で供給する培養器が必要である。光透過厚みが限られるため、その設計には多くの困難がある。光エネルギー変換効率は平均1%である。バイオ基質からの水素発生収率は高い。現段階では、本バイオ水素のコストは非常に高い。
書評: sano
http://www.jie.or.jp/biomass/bmsg/main/009Bsyohyou/009B-suiso/009B-suiso.htm

理解に役立つ雑誌記事:
3) ラン色細菌を利用した光生物的水素生産
櫻井英博、増川 一:「ラン色細菌の光生物的水素生産:化石燃料代替エネルギーの開発を目指して」 蛋白質核酸酵素48巻/13号,1824-1831ページ 2003年

4)発酵による水素生産
谷生重晴: 「バクテリアはなぜ水素を発酵で発生するのか、またエネルギー生産利用における問題点は何か」水素エネルギーシステム 29巻/1号、2-6ページ 2004年

>>・実際に水素発生させるにはどういった機材が最低限必要なのでしょうが?

[回答2]
どのような微生物、方式を利用するかによります。微生物実験の経験がある人にとってはそれ程難しくないが、無い人にとっては無理と言ってもいいほどかなり難しい技術です。
[回答1-1)]の参考書には多少の図解がのっています。
例)光合成細菌
ガラス瓶に滅菌した培地を作り、密閉し(栓は水素透過性の低いブチルゴムなど)、嫌気的条件下で光合成細菌を無菌的に接種し、白熱灯で培養すると水素を発生する。発生する水素を集めるために注射器と注射筒などをつける。

>>・微生物電池というものを最近聞くのですがこれはどういった原理なのでしょうか?

[回答3]産業技術研究所のHPが役立ちます
http://unit.aist.go.jp/eutech/eubio/theme/denchi.htm
また、次のようなトピックスも報じられていますが、経済的評価はまだまだという段階のようです。
http://www.nedo.go.jp/kankobutsu/report/916/916-11.pdf

>>・微生物による水素発生を扱った展示会や講演会はあるのでしょうか?
残念ながら、わが国で定期的に開かれる、まとまったものはありません。
水素エネルギー協会http://www.hess.jp/、日本農芸化学会http://www.jsbba.or.jp/
の大会では微生物による水素発生の発表がいくつかあります。発酵によるものがほとんどです。
光生物的生産分野では、近い過去において、
・ 2004年3月の日本植物生理学会大会で私は[再生可能エネルギー創成を目指す光生物的水素生産の新時代]というシンポジウムを組織しました。
・ 2004年6月には横浜で15th World Hydrogen Energy Conferenceが開かれ,燃料電池などのほか光生物的水素生産についてもいくつかの発表がありました。

なお、私は、日本エネルギー学会大会で発表しますが、光生物的水素生産の話は私だけという状況です。
http://www.jie.or.jp/14taikai_0.htm
8月4日13:10-13:30 
水素生産性改良ラン色細菌による光生物的水素蓄積のための培養条件の検討
                                     以上

櫻井英博 (早稲田大学教育・総合科学学術院 教授、教育学部生物学教室)
sakurai@waseda.ac.jp
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-07-03