質問者:
一般
yakeyama
登録番号2622
登録日:2012-04-05
初めて投稿させていただきます。みんなのひろば
カシワの落葉について
私は、北海道に住んでおります。
落葉樹は冬に葉を落とすのですが、ミズナラ、アカナラなどブナの仲間は冬も葉をつけている樹をよく見かけます。何年も剪定されていない街路樹のアカナラや比較的幼少木に冬期に葉を残している木が多いように思います。
その仲間であるカシワは、冬期間も葉を残し、新葉が出るときに古い葉を落とすといわれています。
ところが、3月下旬に公園へ行って、大きなカシワの木を見ると、葉が1枚もないのです。一方、同じ公園で、高さ3〜5mの列植されたカシワが数十本あるのですが、それらの多くの木は葉を残してます。
その数日後、別の公園にある大きなカシワの木を見に行きましたが、樹冠上部の葉はまったく残っておらず、主幹から出た細い枝に少し葉をつけているだけでした。
比較的若いカシワの木は葉を残すが、老木は葉を落とすのはなぜなのでしょうか?
自分なり考えて見ると、
葉が落葉する前には枝と葉の間に離層が形成されますが、そのときホルモンが作用しているといわれています。
その意味で、若い木はホルモンの出が悪いのではないかと推測します。
また、剪定されたアカナラが葉を残すのは剪定というストレスのためにホルモンが正常に働かなくなったのではないかと考えたりします。
このカシワの老木と若木で落葉に違いがあるのはどのような理由によるものか
教えていただければありがたいです。
yakeyama さん:
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがたいへん難しいご質問です。落葉樹にもかかわらず、秋から冬にかけて枯れた葉が枝から離れずについている性質で、日本語では適当な用語がありませんが英語ではMarcescenceを使っています。英和辞書の訳語では「枯凋性」とされています。ブナ科、カバノキ科、クスノキ科などに多く見られます。一般に観察されているところを大まかに整理すると、1)種によって枯凋性を示す期間が違う。カシワなどは冬期を通じて葉を落とさず、春に新芽が成長してやっと落とす部類ですが、アベマキなどは、秋早く落とす葉、冬になっても落とさない葉が混在しています。コナラの類はこれらの中間と言ったところでしょうか、2)老木は早く葉を落とすが、若木はいつまでも葉をつけている、3)一本の樹木で見ると、周囲の枝の葉は早く落ちるが、内部の葉はいつまでも付いている、といった傾向があります。
1) 枯凋性の期間の違いは離層ができる速さ、程度と維管束の構造の問題と思われます。離層、落葉についてはこのコーナーで幾つかの質問がありますが、簡単に繰り返します。中、高緯度地域の落葉樹では、夏が過ぎ日長が短く、気温が低下してくると葉の光合成や根の吸水力も弱まり葉柄を通る水の量も減少し、葉は老化段階に入ります。老化過程では葉の中に残っている炭素、窒素、ミネラルなど母体へと回収しはじめます。それと同時に葉柄の基部に、葉柄を横断するように特別な細胞層ができはじめます。これを離層といい、後に離層細胞間の接着がゆるんで葉を脱離させる働きをします。離層は葉柄の外側から内側に向かってできますので物質の通路である維管束はまだつながっていて葉が黄色くなっても内容物の回収作業はしばらく続きます。種による違いは、離層形成がつづいて維管束を切断するようになるもの、離層形成がとても遅く(中断し)て維管束がつながった状態になるものなどに現れます。離層が維管束を切るように形成されるものでは離層細胞間の接着がゆるめば落葉しますが、切断されていない場合には維管束でつながっていて葉は落ちません。維管束の物理的な強さ如何で、早く落ちたり、遅くまで落ちなかったりします。また、春になってようやく離層が葉柄を分断するように完成するものもあります。結局、枯葉が付いている長さは、離層形成の速さ、細胞接着をゆるめる酵素類のできる速さと維管束の物理的丈夫さで決まり、そのバランスが種によって違うのだと説明することができます。
2) 老木と若木の違いはどうしてだろうかと考えてみました。もっともあり得ると思われるのは若木の葉柄内の維管束は老木の葉の維管束よりも頑丈にできるだろうということです。若木の方が代謝活性は老木よりも旺盛だと考えられますから、ありそうな説明になります。枯凋性が若木に見られるのは生態学的には枯葉が付いていると動物の食害を受けにくい(食物としての魅力が少ない?美味しい新芽が隠される)利点があるから、とも説明されています。しかし、若木、老木は幼若性、成熟性とも関係があって代謝活性だけで簡単に片づけられる問題ではありません。例えば、1本の樹木で見るとき、主幹の基部(根元付近 齢はより進んでいる)から出る「ひこばえ」と上方の枝(齢は新しい)から枝分かれする新梢を比べると、どちらも当年性のシュートで比べても生理的性質(例えば不定根形成能など)は違います。
3) 周囲の枝と内部の枝に付く葉の違いについては、環境からの影響が周囲の方がより強いことが考えられ、これらが離層形成の速さ、程度に影響することが考えられます。
以上の説明は、枯凋性に関する形態学的研究は少ないので、離層形成の仕組み、葉の落ち方の観察などから推定できる範囲に止めたことをご承知おきください。
みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
お答えするのがたいへん難しいご質問です。落葉樹にもかかわらず、秋から冬にかけて枯れた葉が枝から離れずについている性質で、日本語では適当な用語がありませんが英語ではMarcescenceを使っています。英和辞書の訳語では「枯凋性」とされています。ブナ科、カバノキ科、クスノキ科などに多く見られます。一般に観察されているところを大まかに整理すると、1)種によって枯凋性を示す期間が違う。カシワなどは冬期を通じて葉を落とさず、春に新芽が成長してやっと落とす部類ですが、アベマキなどは、秋早く落とす葉、冬になっても落とさない葉が混在しています。コナラの類はこれらの中間と言ったところでしょうか、2)老木は早く葉を落とすが、若木はいつまでも葉をつけている、3)一本の樹木で見ると、周囲の枝の葉は早く落ちるが、内部の葉はいつまでも付いている、といった傾向があります。
1) 枯凋性の期間の違いは離層ができる速さ、程度と維管束の構造の問題と思われます。離層、落葉についてはこのコーナーで幾つかの質問がありますが、簡単に繰り返します。中、高緯度地域の落葉樹では、夏が過ぎ日長が短く、気温が低下してくると葉の光合成や根の吸水力も弱まり葉柄を通る水の量も減少し、葉は老化段階に入ります。老化過程では葉の中に残っている炭素、窒素、ミネラルなど母体へと回収しはじめます。それと同時に葉柄の基部に、葉柄を横断するように特別な細胞層ができはじめます。これを離層といい、後に離層細胞間の接着がゆるんで葉を脱離させる働きをします。離層は葉柄の外側から内側に向かってできますので物質の通路である維管束はまだつながっていて葉が黄色くなっても内容物の回収作業はしばらく続きます。種による違いは、離層形成がつづいて維管束を切断するようになるもの、離層形成がとても遅く(中断し)て維管束がつながった状態になるものなどに現れます。離層が維管束を切るように形成されるものでは離層細胞間の接着がゆるめば落葉しますが、切断されていない場合には維管束でつながっていて葉は落ちません。維管束の物理的な強さ如何で、早く落ちたり、遅くまで落ちなかったりします。また、春になってようやく離層が葉柄を分断するように完成するものもあります。結局、枯葉が付いている長さは、離層形成の速さ、細胞接着をゆるめる酵素類のできる速さと維管束の物理的丈夫さで決まり、そのバランスが種によって違うのだと説明することができます。
2) 老木と若木の違いはどうしてだろうかと考えてみました。もっともあり得ると思われるのは若木の葉柄内の維管束は老木の葉の維管束よりも頑丈にできるだろうということです。若木の方が代謝活性は老木よりも旺盛だと考えられますから、ありそうな説明になります。枯凋性が若木に見られるのは生態学的には枯葉が付いていると動物の食害を受けにくい(食物としての魅力が少ない?美味しい新芽が隠される)利点があるから、とも説明されています。しかし、若木、老木は幼若性、成熟性とも関係があって代謝活性だけで簡単に片づけられる問題ではありません。例えば、1本の樹木で見るとき、主幹の基部(根元付近 齢はより進んでいる)から出る「ひこばえ」と上方の枝(齢は新しい)から枝分かれする新梢を比べると、どちらも当年性のシュートで比べても生理的性質(例えば不定根形成能など)は違います。
3) 周囲の枝と内部の枝に付く葉の違いについては、環境からの影響が周囲の方がより強いことが考えられ、これらが離層形成の速さ、程度に影響することが考えられます。
以上の説明は、枯凋性に関する形態学的研究は少ないので、離層形成の仕組み、葉の落ち方の観察などから推定できる範囲に止めたことをご承知おきください。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-04-12
今関 英雅
回答日:2012-04-12