一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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落葉樹の水の移動について

質問者:   大学生   prunus
登録番号2630   登録日:2012-04-24
いつも興味深く見させていただいています。

落葉樹の冬の水の移動について質問です。通常、植物は葉の蒸散作用があるからこそ根圧が生じると学びました。落葉樹の場合、冬は葉を落とします。では、どのように水をくみ上げているのでしょうか?

休眠状態であったとしても、発芽をする際、水や無機塩類を必要とするはずです。どのように水を得ているのでしょうか?

また、休眠状態であり、水をあまり吸い上げることができないということは、無機塩類を吸い上げることもできないということになります。そのため、マグネシウムが不足し、春の新しい葉はクロロフィル量が少ないと考えることは、強引でしょうか?
よろしくお願いいたします。
prunus さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
3つのご質問があるようですが、2番目と3番目は関連する内容ですのでまとめてお答えします。
1.落葉樹では冬には葉がないのにどのように水を汲み上げているか。
まず、植物体内にある水はどのような状態かをよく考えてください。水は茎の維管束内はもちろんすべての細胞や細胞壁、細胞間隙に充満しています。つまり、植物体内の水は連続して存在します。この状態は多少の量の違いがあるにしても夏でも冬でも、葉があってもなくても変わりません。一方、茎の表面、樹皮の外側(外樹皮)には、コルク層と呼ばれる水を通しにくい組織層がありますが、水を絶対の通さないというものではなく、少量ですが樹皮表面から水が蒸発して失われています(樹皮表面の水ポテンシャルが低下する)。そのため、特に細胞間隙にある水が樹皮表面に向かって移動します。根には常に吸水力がありますから、地上部で失われた量に相当する水が吸収されます。低温下では細胞活動も低下していますから夏ほど大量の水蒸散を必要としません。気孔からの蒸散作用が主要な(大量の)水の移動の原動力となっていることは間違いないことですが、それだけではありません。また根圧は、蒸散作用で発生するのではなく、根細胞内と外側(土壌内)にある水ポテンシャルの差で発生するものです。
2、3.種子の休眠と種子が吸水することとは直接的な関係はありません。種子は乾燥状態にあるのが普通ですが、休眠の有無にかかわらず水に浸漬すれば吸水します。特に細胞壁は親水性の多糖類でできていますので物理的に水を吸収します。これには2つの力、すなわち細胞間隙と細胞壁内微細間隙による毛管現象と細胞壁多糖類の水和力が関与しています。根の吸水力もそうですが植物細胞の吸水力の主体は物理的な浸透現象で、水を汲み上げるポンプ(エネルギーを使う)はありません。これらの力によって充分に吸水しても種子胚が休眠していれば発芽はしません。ということは、細胞はイオンを吸収する積極的活動もしていないことになります。種子胚は休眠から目覚めてはじめて細胞活動がはじまり、栄養塩類を積極的に吸収しはじめるのです。栄養塩類の吸収には細胞膜に局在する各イオン固有のポンプをつかいますので、水の吸収機構とは違います。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-04-26
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