一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ミニトマトの交配

質問者:   小学生   ひとで
登録番号2638   登録日:2012-04-29
毎年庭でミニトマトを育てています。トマト好きの息子が受粉に興味を持ち、「違う品種を受粉させたら違う味ができるのか、どんな味になるのか、やってみたい。」と言いだしました。

家庭菜園では、毎年「アイコ」という甘い品種とオレンジ色のミニトマトを育てています。息子はその菜園で同じく数種類のミニトマトを栽培しながら、開花後に人工授粉をして結実を待つ、と言っていますが、そう簡単に出来るものなのでしょうか。

また、注意点などがありましたら教えてください。
ひとで さん

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。家庭菜園で野菜を育てて、新鮮な野菜を毎日食べられるのは素敵なことですね。お子様が、植物の様々な現象に興味を持たれるのも素晴らしいことです。ぜひ、交配の実験が成功出来るよう援助してあげてください。

まず、人工授粉の仕方に先立って、トマトの自然の受粉のことを勉強してみましょう。トマトは両性花といって、花の中央に雌しべが、その周辺に五本の雄しべあります。自然状態では、この雄しべの葯(花粉のう)が破裂して、なかから花粉で飛び出し、中央の雌しべの先端(柱頭)につきます。このように自分の花の中で受粉が完結するものを自家受粉といいます。トマトは例外的な品種を除いて、自家受粉を行います。葯は成熟すると、風が吹いたり、何か機械的振動が加わったりすると破れます。ハチやハエなどの昆虫が蜜を吸いにやって来て、葯にふれ花粉が飛び出でます。そして昆虫の身体にも付着します。その場合昆虫が花粉を運ぶ(虫媒)ことになりますから、もし、別の品種のトマトが近くにあったらその花へも花粉を運ぶことにもなります。これは自然交配(交雑)と言うことになりますね。ハウス栽培のトマト(季節はずれに市場にでているトマトのほとんどはハウス栽培です)の場合は風などがありませんので、ハウスの中にハエやハチを放して受粉を盛んにしてやる必要があります。サクランボなども同じですね。あるいは、一つ一つの花に手で人工授粉させてやらないといけません。

息子さんが栽培しているのは,当然路地栽培ということになりますから、そのままだと、風が吹いたり、昆虫によってどんどん自家受粉がすすんでしまいます。一度受粉した花に後から別の花粉を与えてもその花粉による受粉はまず成立しません。従って、目的の品種の花粉で受粉させたいなら、自家受粉が起きる前に、あるいは起きないようにしてやらねばならないのです。それに、受粉はいつでも良いというのではなくて、雌しべも、雄しべも成熟した時期にしなければなりません。
さて、息子さんが実際にとのような手順で人工授粉をさせたらよいかということを順序を追って書いてみます。

1 花ができたら、花弁が開き始めて、開ききる前に、雄しべをピンセットかなにかで取り除きます。そのとき2枚の花弁だけ残して,他の3枚の花弁は  ピンセットでとりのぞきます。
2 残った花弁が開いた時、雌しべは成熟している段階です。2枚花弁を残したのは雌しべが受粉可能な時期を知るためです。
3 他の品種のちょうど開いた花を切り取って、花ごと2の花の雌しべ(柱頭)に擦り付けてやります。もちろん雄しべから花粉を集めてふりかけてやっ
てもかまいません。
4 受粉がすんだら花房全体を白い紙袋かなにかで覆っておきます。面倒だったらそのままでもいいでしょう。
5 紙袋は1〜2日で取り外してもかまいません。
6 後は普通のトマトを育てるように肥料や水をやって下さい。

ところで、交配の結果できた果実(トマトの実)に影響がでるかというと、そういうことはありません。できる果実は雌しべに使った植物体の品種と同じ果実ができます。花粉の役割は雌しべの中の卵細胞に精細胞を送り込んで受精を起こさせることにあります。受精の結果は胚が形成され、種子ができます。果実はしたがって、花粉の影響をうけません。ただし、受粉の刺激によって、果実の成長を促進するホルモンができます。交配の結果が分かるのは、交配によってできた果実を完熟させて、種子を採取し、それを翌年播いて収穫するトマトを見るか食べてみないと分かりません。実験は2年がかりです。
がんばってやってみて下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-05-09