一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の原産地とストレス耐性について

質問者:   会社員   T2HKG
登録番号2639   登録日:2012-05-01
最近、植物の放射性物質汚染の状況を個々に見ながら、その植物の原産地が寒冷・乾燥した土地であるか、またはその正反対に、温暖、亜熱帯産のものであるとか、さらには酸性土壌に強い・弱い等の特徴との相関を考えています。そうした環境中で培った有機酸の生成能力が汚染度合いにも影響を及ぼしている気がしているのですが、そこでまず、おもな植物(作物)の原産地を知るのによい一覧などがないかと探しています。 それに加えてその植物の好む土壌(pH)特性もまとめられているとさらにおもしろいのですが、そうした情報はどこかにありませんでしょうか?
T2HKG 様

ご質問を有り難うございました。この質問には環境科学技術研究所の山上睦博士が大変詳しい回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。



(山上 睦博士からの回答)
作物の原産地は、ほとんどの作物学、園芸学等の専門書に書かれています。たとえば、星川清親著、新編食用作物(養賢堂、1996)の一章、総論中に作物の起源として、DE CANDOLE(1883)やVAVILOV(1928)等により研究された作物の起源地が紹介されています。

① 中国地区-キビ、ヒエ、ソバ、ダイズ、アズキ、ゴボウ、ワサビ、ハス、クワイ、ハクサイ、ネギ、ナシ、アンズ、クリ、クルミ、ビワ、カキ、チャ、ウルシ、クワ、チョウセンニンジン、タケノコ、ナガイモなど。ダイコン、キュウリ、モモなどは2次中心地。

② ヒンドスタン(インド、マレー)地区-イネ、シコクビエ、ナス、キュウリ、ユウガオ、タロイモ、ヤムイモ、ショウガ、シソ、ゴマ、タイマ、ジュート、コショウ、シナモン、チョウジ、ナツメグ、サトウキビ、ココヤシ、オレンジ、シトロン、ミカン類、バナナ、マンゴー、パンノキなど。

③ 中央アジア地区-ソラマメ、ヒヨコマメ、レンズマメ、カラシナ、ゴマ、アマ、ワタ、タマネギ、ニンニク、ホウレンソウ、ダイコン、ピスタチオ、バジル、アーモンド、ナツメ、ブドウ、リンゴなど。メロンの2次中心地。

④ 近東地区-コムギ、オオムギ、ライムギ、エンバク、ウマゴヤシ、ケシ、アニス、メロン、ニンジン、パセリ、レタス、イチジク、ザクロ、リンゴ、サクランボ、クルミ、ブドウなど

⑤ 地中海地区-エンドウ、ナタネ、サトウダイコン、キャベツ、カブ類、アスパラガス、パセリ、セルリー、ゲッケイジュ、ポップ、オリーブ、シロクローバーなど

⑥ アビシニア地区-モロコシ、ササゲ、コーヒー、ヒマ、オクラ、スイカ、アブラヤシ、ヒョウタンなど。

⑦ メキシコ南部、中央アメリカ地区-トウモロコシ、サツマイモ、カボチャ、ワタ、カカオ、パパヤ、アボガド、カシュウナッツなど。

⑧ 南アメリカ地区-ジャガイモ、タバコ、トマト、イチゴ、トウガラシ、セイヨウカボチャ、ラッカセイ、イチゴ、パイナップル、キャッサバ、ゴムなど。

上記のバビロフは「もっとも多くの作物の変種、すなわち遺伝的変異の存在するところがその種の起源となっている中心地である」との考えを基に‘’遺伝子中心説‘’を唱えました。この点に関しての詳細はN・バビロフ著/中村英司訳 栽培植物発祥地の研究(八坂書房、1980)に詳しく述べられており、植物分類地理学、遺伝学、民俗学などの要素を取り込んで考察されています。上記の作物の起源地域は古代文明の発祥地とオーバーラップしている場合もあり、農耕の発達に伴って、近隣の植物を積極的に作物化した結果とも解釈できます。植物資源の開発や遺伝資源の保護、食糧生産のみにとどまらず環境保護、新規バイオ資源の開発などを将来にわたって考えるうえでも、こうした古典を読むことは決して無駄にはならないと考えます。さらに、ジャック・ハーラン著/熊田恭一、前田英三訳 作物の進化と農業・食糧(学会出版センター、1984)を紐解くのも一考です。

園芸植物の起源については、種類、起源地域ともに多岐にわたりここで紹介するには紙面に制限があるので、参考書の紹介にとどめます。塚本洋太郎著、花卉総論(養賢堂、1982)には、花卉園芸の歴史、花卉の分類など詳細に述べられており、花卉の原産地の気候や地理的特性に加えて品種改良がおこなわれた地域の環境特性が品種の特性に強く反映されることが述べられています。植物の生育特性は、その植物の原産地域もしくは品種改良がなされた2次的遺伝子中心地域の土壌と気候で決まってきます。土壌特性は栽培管理でかなり再現出来るので、生育時期を考慮した気候特性が非常に重要になります。その点から、気候型による分類は園芸作物の栽培上重要な分類方法になります。世界各地の気候から、①地中海気候型、②大陸西岸気候型、③大陸東岸気候型、④熱帯高地気候型、⑤熱帯気候型、⑥砂漠気候型、⑦北地気候型の7つの基本型に分け、それぞれ園芸植物を紹介しています。

残念ながら、土壌pHと植物原産地との関連で分類分けした文献を見つけることはできませんでした。酸性土壌と作物の根の発達の関係の種間差に関しては、橋本武著、酸性土壌と作物生育(養賢堂、1996)に詳細が述べられています。嫌酸性作物として、オオムギ、ダイズ、インゲンマメ、ホウレンソウ、キャベツ、レタス、ハクサイ、トマト、ピーマン、ナス、カボチャ、キュウリ、トウガン、オクラ、ニンジン、トウモロコシ、ソルガムなど、好酸性植物としてヤマノイモ、サトイモ、モモ、ウメ、クリ、チャ、サツキ、ツツジ、サザンカ、ツバキなどを上げています。好酸性植物の中にはアルミニウム集積植物が含まれことが多いです。

植物の環境適応能力およびその特性を利用した植物による環境浄化などを考える場合、特殊土壌環境に対する植物の適応戦略を理解することが重要になります。その点から、酸性土壌、重金属汚染土壌、特殊土壌(蛇紋岩土壌など)、アルカリ性土壌などでの植物の生態型的変異を調査し、その遺伝特性を分子生物学、分子生化学的に明確にすることは、今後重要になります。植物の進化生物学的アプローチからこうした問題を紹介した著書があり、是非、一読をお勧めします。河野昭一著、種の分化と適応(三省堂、1974)、種内集団にみられる生態型的変異の項目では、蛇紋岩土壌や高濃度金属イオン含有土壌、海岸岸壁などに適応した植物群についての研究が紹介されています。また、植物分子生物学の材料として利用されているシロイヌナズナの日本における野生型の遺伝的特性や日本列島におけるルーツなどについて、変動環境と植物集団の局所的適応・分化の章で紹介しています(河野昭一、井村治著、環境変動と生物集団、海遊舎、1999)。

山上 睦(環境科学技術研究所・環境影響研究部)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-05-21
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