一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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フィトクロムを多く含む植物・組織

質問者:   教員   理科教員
登録番号2690   登録日:2012-07-20
光受容色素であるフィトクロムは、どんな植物や組織に多く含まれているのでしょうか。また、その量や光可逆性はどのように測るのでしょうか。
理科教員 様

本コーナーに質問をお寄せ下さり有り難うございました。
この質問にはフィトクロムに関して長く研究して来られている大阪府立大学の徳富先生が回答文をご用意下さいましたので、ご参考になさって下さい。



(徳富先生からの回答)
みんなの広場質問コーナーのご利用有り難うございます。まず、植物がフィトクロムのホモログ(類似体)を複数持っているということから話を始めましょう。例えば、最近研究によく使われるシロイヌナズナは、A型からE型までの5種類のフィトクロム・ホモログを持っています。この内主要な働きをしているのはA型とB型です。大部分の植物は、この2種類のフィトクロムを持っています。

最初にA型フィトクロムから説明しましょう。A型は芽生えの黄化組織(もやし)に多く含まれています。もやしの中でも、細胞分裂の盛んな下胚軸や根などの先端部分に多いことが知られています。まだ分子生物学が盛んで無かった時代には、それぞれの組織の特定部分を切り取り、それを特殊なセルに詰めて、分光光度計でその吸収スペクトルを測定し、赤色光吸収型Prマイナス遠赤色光吸収型Pfrの差スペクトルの大きさから組織中のフィトクロム量を推定していました。実験には単子葉植物としてはオート麦、双子葉植物ではアラスカエンドウが多く用いられていました。同様な差スペクトルの測定は、その組織の抽出液を用いても可能です。現在では組織抽出液中のフィトクロムタンパク質量を、抗体を用いた方法で定量しています。A型フィトクロムはもやし中に多いのですが、光に曝すと急速に含量が低下し、1時間位で約1/50になり、分光学的な測定はできなくなります。

A型フィトクロムは、教科書に良く出てくる赤-遠赤色光可逆的な光反応を担ってはいません。これを担っているのはB型フィトクロムです。B型は光条件にかかわらず黄化組織、緑化組織ともに一定量、光に曝された後のA型フィトクロムとほぼ等量、存在していますが、これを分光学的に検出するのは至難の技です。

光可逆性の測定に関しては、見ようとする対象の違いで以下の様に分けられると思います。フィトクロムそのものを見ようとする場合、上記の黄化組織の吸収差スペクトルの様に、黄化組織あるいはその抽出液の分光学的測定を行います。一方フィトクロムが担う生理反応の光可逆性を見る場合もあります。例えばレタスの種子発芽を例にとると、温度を一定にして、赤色光、赤色光の後に遠赤色光、赤色光の後に遠赤色光その後にまた赤色光などの繰り返し光照射を種子に与え、暗黒化に置いたものと発芽率を比較すれば、生理反応の光可逆性が得られます。照射用光源としてはLEDを光源としたものが良く用いられます。赤色光としては660nm位(Prの吸収極大波長は666nm)に発光極大をもつものが良いのですが、遠赤色光LEDについては手に入り難い上に波長特性の良いものがあまり無く、厳密な光可逆性を見るためには光フィルターなどと組み合わせる必要があります。

徳富 哲(大阪府立大学大学院・理学研究科・生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-07-25