一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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貧栄養状態と子孫の関係

質問者:   教員   りょう
登録番号2699   登録日:2012-07-25
子どもがオクラを育てています。日かげで育てたものは、どれも早く花が咲いてその後に実が1つだけできました。日なたに育てたものは、茎が伸びて実も3〜4個できています。(7月中旬の時点において)。そこで教えていただきたいのですが、栄養状態が悪かったり、日光が十分にあたらなかったりして成長の条件が悪いと、植物は一般的に早く実をつけて子孫を残そうとするのでしょうか。もし、何か参考になるような書籍や文献があれば併せて教えていただけると幸いです。どうぞよろしくお願い致します。
りょう様

質問コナーへようこそ。歓迎致します。良く観察なさっていますね。植物にとって花が咲き実がなることは次世代につなぐ種子をつくる大事なステップです。そのために、植物はさまざまな手段を講じています。一般に陽当たりが良く、肥料も水も十分にあたえられると、植物はまず枝を伸ばし葉を広げ大きく育ちます。そして花をつけ、実がなって健全な種子ができるのです。しかし、植物が何かの原因で正常な成長ができないと、身体が大きくなる前に花をつけ。結実する傾向があります。果樹でも幹を横にしたり,むりやり枝を下向きにしたりすると、早く,沢山花をつけることがあります。アサガオも非常に混み入った状態でそだてると、早く花芽ができるそうです。このように植物にとってストレスとなるような条件を与えてやると,早く花が咲くのが普通です。だから、オクラをの場合も陽当たりが悪いのはストレスになりますから、早く花をつけたのかもしれません。このような開花結実の傾向は、植物の生存戦略のあらわれといえるでしょう。残念ながらこのような現象だけを扱った書籍は知りません。ご質問の内容は植物の生活環における生殖成長はどのように調節されているのかという基本的な問題にも関わることなので、。以前に私がこのコーナーで回答したことが参考になると思います。しかし、何かの理由で質問コーナーには掲載されていませんので、ここに引用しておきますの読んで見て下さい。

[タイトル]
貧栄養状態と子孫の関係
[質問内容]
子どもがオクラを育てています。日かげで育てたものは、どれも早く花が咲いてその後に実が1つだけできました。日なたに育てたものは、茎が伸びて実も3〜4個できています。(7月中旬の時点において)。そこで教えていただきたいのですが、栄養状態が悪かったり、日光が十分にあたらなかったりして成長の条件が悪いと、植物は一般的に早く実をつけて子孫を残そうとするのでしょうか。もし、何か参考になるような書籍や文献があれば併せて教えていただけると幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

植物の個体の成長は、大きく分けて体が大きくなる栄養成長の相と次世代への繁殖のための花芽形成?種子形成の生殖成長相とがあります。もちろん繁殖の手段としては種子形成以外の方法もありますが、ここでは、ご質問の種子形成のことにかぎりましょう。ご質問では「現象の仕組みの解明」の現況を知りたいということですので、植物の生殖成長の過程についてはある程度基礎的な知識は持っておられることと思いますが、一般的なことから話を進めることにします。
植物にとって生殖成長相は生活環の最大の山場です。栄養成長相は生殖成長を成功させるための準備段階のようなものだと捉えることができます。生殖成長の完結には多大のエネルギーを必要としますので、植物はそのエネルギーが十分供給されるように栄養成長を行うといってもよいでしょう。ある年にたくさんの実がなると(あるいは花が咲くと)翌年は少ないという現象はよくみられることです。それは、植物体が生殖成長のためにエネルギーを使いすぎて、翌年は疲労困憊になったからだともいえます。果実が多くできるということは、それだけ植物体が消耗することにもなりますし、また、一つ一つの果実も十分に大きくなることができません。だから、果実の栽培家は摘果を行って果実数を調節します。質問内容にもあるように、植物体が病気などによって弱ると栄養を十分蓄えることができませんので、生殖成長も勢いがないのは当然です。

生殖成長は花が咲くとことと、受粉が起きて結実する(種子ができる)ことの二つの連続した過程を考える必要があります。植物はある条件が整うと、栄養成長を行っていた茎頂が、葉芽を分化する代わりに花芽を分化すようになります。これが栄養成長相から生殖成長相への切り替わりです。花芽形成が起きる条件は植物の種類によって様々です。よく知られているのは光周条件です。四季のある環境に生育する植物はいつ花芽をつけるかは一日の日照の長さが信号となっています(光周性)。また、ある期間の低温を経験することが必要な植物もあります。現存の野生の植物は、進化の過程でそれぞれの生育環境のなかで、最適の生存のためのストラテジーを獲得してきたものと考えられます。したがって、花芽をつける条件もそのストラテジーの一つです。環境の現状が著しく変わると、例えば異常気象が続いた場合など、植物は戸惑ってしまい、「狂い咲き」などが起きることになります(質問コーナーの過去の回答:登録番号1104; 1170; 1429 をご覧下さい)。また、ご質問にもありますように、病害、虫害や、栄養?水分条件の異常などによるストレスが続くと花芽ができることがあります。植物は正常な生育条件下にしろ、上記のような異常な生育条件下にしろ、これらの環境の刺激を信号として受け取り、これらを体内で化学的信号に転換して、その内的な信号によって花芽形成という生殖成長への切り替えが起きるのです。植物が花芽形成に関わる環境の刺激をどのように受け取るのか、また、それはどのように化学的な内部信号に転換されるのか、化学的信号の実体はなにか、その化学的信号は茎頂でどのようにして葉芽形成を花芽の形成に切り替えるのかなどは極めて興味ある研究のテーマで、現在世界中で多くの研究者が分子レベルでの解明に取り組んでいます。光周性に関しては日本の研究者が一昨年化学的信号の本体を明らかにしました。外部の信号の種類がちがってもおそらく内部の化学的信号は同じであるかもしれませんが、これらのことにつてはこれからどんどん明らかにされてくるでしょう。化学的信号はフロリゲン(花成ホルモン)とよばれていますが、過去の質問コーナーの回答(登録番号1630) を参照してください。また、質問コーナーで「フロリゲン」の言葉で検索して関連する質問への回答も読んでください。 

さて、花芽ができても、生殖成長は完結しません。花が大きくなり、開花するのは栄養成長と同じで、養分の供給が必要です。形成されたすべての花芽がそのまま開花まで至とはかぎりません。栄養状態が悪いて脱落してしまいます。花の本来の意義?役割は受粉によって結実(種子形成)することにありますが、そのなかで、受粉は決定的な役割を持っています、植物の種類によってそのメカニズムは多種多様です。これらの多様性は生育環境への適応の結果生じたものです。したがって、虫媒花の植物の場合は結実の程度は花粉を運んでくれる昆虫が多いか少ないかでも決まることになります。体力がり、養分の供給も十分であり、たくさんの花芽ができて、立派な花が開花しても肝心の昆虫が少ないと結実はすくないという結果になります。以上のように、花芽の形成 → 開花 → 受粉 → 結実という生殖過程は実に様々な要因で調節され、また影響を受けます。ご質問にもありますように、植物の中には外的ストレスが強いと花を多く咲かせ、果実は小さくてもたくさん作った後、死んでしまう例もありますが、これを「身は死して、子孫を残す」ためと合目的的に理解するかどうかは科学の範囲ではないようですが、それも自分のDNAを残すストラテジーの一つなのでしょう。なお、日本植物生理学会が監修して出版された啓蒙的書物のなかに、「花はなぜ咲くの?」西村尚子著、化学同人 2008年がありますので、ぜひ読んでいただければと思います。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-07-27
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