一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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接ぎ木の仕組み

質問者:   その他   チビタン
登録番号2700   登録日:2012-07-26
 私は専門学校で植物バイオテクノロジーについて学んでいます。そこで、今GM植物で問題とされているのが遺伝子拡散による生態系への影響だと学びました。
 接ぎ木をした植物の間で遺伝子のやり取りは行われないこと知っていたため、GM植物に接ぎ木を行えば遺伝子拡散の危険は減るのではないかと考えました。しかし、そこで「台木のもつ耐病性や対虫性がどのようにして接ぎ木に付加されているのか?」という疑問がわきました。
 自分で調べてはみましたが、これについて述べているものがなかったため質問させていただきました。
チビタン様

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。接ぎ木をしたもので、接ぎ穂の芽や葉がちゃんと育っていることから、根から葉に水や無機栄養塩類が運ばれていることは容易に分かると思いますが、色々な植物ホルモンも台木から接ぎ穂へと運ばれています。例えば、植物ホルモンのサイトカイニンですが、このホルモンを合成することが出来ないことから正常な生長が出来ない突然変異株から切り出した接ぎ穂を、合成することの出来る野生株の台木に接ぐと、接ぎ穂は正常な生長を示すようになります。サイトカイニンが台木から接ぎ穂に供給されるからです。さて、ご質問の病虫害防御に台木がどのように貢献するかと云う点ですが、病害虫防御に働く植物ホルモンにジャスモン酸というホルモンがあり、このホルモンも台木から接ぎ穂へと運ばれます。ジャスモン酸はプロテアーゼ・インヒビター(蛋白質分解酵素の働きを阻害する物質)遺伝子の発現を誘導し,プロテアーゼ・インヒビター蛋白質も増やします。プロテアーゼ・インヒビターは虫に消化不良を起こさせ植物を防御します。葉が虫に食われると、ジャスモン酸量が増えます。シロイヌナズナが小さな虫のアザミウマに噛まれた場合、ジャスモン酸量が11.8倍になったと云う報告があります。ジャスモン酸を合成出来ない突然変異株がありますが、この変異株ではプロテアーゼ・インヒビターを合成することができません。この突然変異株から切り出した接ぎ穂を、ジャスモン酸を合成することの出来る野生株の台木に接ぐと、接ぎ穂はプロテアーゼ・インヒビターを作ることが出来ようになります。台木が作ったジャスモン酸が接ぎ穂に送られ働いた結果です。優れた形質を持っているがジャスモン酸を合成出来ないため虫に食われやすく、利用することが出来ない植物でも、接ぎ木をすることによって利用することが出来るようになるのです。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2012-08-01
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