質問者:
その他
後藤 大夢
登録番号0271
登録日:2005-06-01
同化産物の葉(単子葉植物と双子葉植物)における貯蔵形態について教えてください。初めまして
どうぞよろしくお願いします。
後藤 大夢 さん
お待たせしました。ご質問に以下のようにお答えします。単に事実だけを説明すれが簡単なことですが、「どうしてそうなるのか?」までを考えると動的な細胞代謝の調節作用が関わってきますので難しい内容となります。この点は最低限にとどめました。
貯蔵という観点から見ると同化産物を一次同化産物(同化デンプン、ショ糖)と貯蔵型同化産物に分けて考える必要があります。貯蔵型同化産物は、一次同化産物がショ糖に変換された後、いわゆる貯蔵器官(根、茎、葉などいろいろあります)に輸送されて貯蔵物質(デンプン、タンパク質、脂質など)に再合成され蓄積します。ご質問は「葉における」と限定されていますので、その主旨は「一次同化産物の貯蔵形態」に関してだと思います。
葉緑体内の光合成で二酸化炭素が固定され三炭糖リン酸(炭素数3個の糖にリン酸が結合したもの)が生産されます。三炭糖リン酸は二つの経路を辿ります。第1の経路は、葉緑体から可溶性基質(サイトゾル、細胞基質)側へ排出され、そこでショ糖へ変換された後、分裂、成長など生物活性の高い組織・器官や貯蔵組織・器官へ運ばれます。ショ糖はすべての細胞のエネルギー源となりますので、葉、茎、根を問わずすべての組織・器官にありますし、ある程度「貯蔵」されています。第2の経路は、葉緑体内で三炭糖リン酸2分子が結合して六炭糖リン酸(炭素数6個の糖にリン酸が結合、ブドウ糖-1-リン酸など)となり、さらにデンプンへ変換されます。その結果、葉緑体内にデンプン粒が蓄積します。このデンプンを同化デンプンと呼んでいます。教科書などに載っている葉緑体の電子顕微鏡写真を見ると「白い大きなかたまり」が幾つか見えますが、これが葉緑体内のデンプン粒です。葉における同化産物の貯蔵形態は葉緑体内で合成され、蓄積されるデンプンが主体ということになります。しかし、葉のデンプン蓄積は一時的なもので、夜間など光合成活性が低下すればブドウ糖などに分解され、葉緑体外へ排出、ショ糖を経由して各組織に輸送されます。
ここで、三炭糖リン酸がこの二つの経路へどのように配分されるかが大きな問題になります。一次同化産物は最終的には葉緑体外へ出され、ショ糖となって必要な部位に運ばれて成長に利用されたり、次世代のために貯蔵物質に変換されたりします。しかし、昼間は光合成的炭素固定活性が非常に高いので、三炭糖リン酸が大量に合成されます。その大部分を第1経路に送ってしまうと、ショ糖合成の速さとショ糖が他組織・器官へ運ばれる速さとの違いから、光合成をする細胞のショ糖濃度が異常に高くなり細胞の浸透圧が高くなって具合の悪いことになります。ここで細胞の調節作用が働いて、ショ糖が異常に蓄積しないように第2経路が働いて葉緑体内にデンプンを蓄積します。デンプンは水に不溶性ですからいくら蓄積しても細胞の浸透圧には影響を与えません。
第1経路を調節する一つの要因は細胞内の無機リン酸の濃度です。三炭糖リン酸の葉緑体外への排出は無機リン酸との交換反応ですので、細胞基質の無機リン酸濃度によって調節されます。実際、葉に光を照射すると、細胞質の無機リン酸濃度が減少することが知られています。細胞質中の無機リン酸が足りなくなると、それまで液胞に貯められていた無機リン酸が細胞質に供給されると考えられますが、葉緑体が必要とする無機リン酸の要求量に比べ、液胞から細胞質へのリン酸供給が十分でない時(例えば、肥料としてのリン酸が不足している時)は、細胞質中の無機リン酸濃度が下がり、結果として第2経路であるデンプン合成が進行すると考えられます。第1、第2経路配分の調節にはこの他たくさんの要因が働いており大変複雑な仕組みになっています。
次に、単子葉植物と双子葉植物での違いについて見てみます。上に説明した事柄は単子葉、双子葉の別なく共通のことです。しかし、一般に単子葉植物では茎が非常に短いので葉が貯蔵器官となる例が多く、光合成細胞から運ばれてきたショ糖を葉や茎に蓄積する傾向があります。ネギ、タマネギ、ラッキョウなどでは貯蔵器官となっている部分(鱗茎、実際は葉が主)でもデンプンでなくショ糖として蓄えられています。サトウキビ、トウモロコシの茎はかなり高濃度のショ糖を蓄積します。もちろん、細胞浸透圧が限界を超えない程度の蓄積です。
細胞内リン酸濃度の調節に関しては、神戸大学理学部 三村徹郎先生に加筆修正いただきました。
お待たせしました。ご質問に以下のようにお答えします。単に事実だけを説明すれが簡単なことですが、「どうしてそうなるのか?」までを考えると動的な細胞代謝の調節作用が関わってきますので難しい内容となります。この点は最低限にとどめました。
貯蔵という観点から見ると同化産物を一次同化産物(同化デンプン、ショ糖)と貯蔵型同化産物に分けて考える必要があります。貯蔵型同化産物は、一次同化産物がショ糖に変換された後、いわゆる貯蔵器官(根、茎、葉などいろいろあります)に輸送されて貯蔵物質(デンプン、タンパク質、脂質など)に再合成され蓄積します。ご質問は「葉における」と限定されていますので、その主旨は「一次同化産物の貯蔵形態」に関してだと思います。
葉緑体内の光合成で二酸化炭素が固定され三炭糖リン酸(炭素数3個の糖にリン酸が結合したもの)が生産されます。三炭糖リン酸は二つの経路を辿ります。第1の経路は、葉緑体から可溶性基質(サイトゾル、細胞基質)側へ排出され、そこでショ糖へ変換された後、分裂、成長など生物活性の高い組織・器官や貯蔵組織・器官へ運ばれます。ショ糖はすべての細胞のエネルギー源となりますので、葉、茎、根を問わずすべての組織・器官にありますし、ある程度「貯蔵」されています。第2の経路は、葉緑体内で三炭糖リン酸2分子が結合して六炭糖リン酸(炭素数6個の糖にリン酸が結合、ブドウ糖-1-リン酸など)となり、さらにデンプンへ変換されます。その結果、葉緑体内にデンプン粒が蓄積します。このデンプンを同化デンプンと呼んでいます。教科書などに載っている葉緑体の電子顕微鏡写真を見ると「白い大きなかたまり」が幾つか見えますが、これが葉緑体内のデンプン粒です。葉における同化産物の貯蔵形態は葉緑体内で合成され、蓄積されるデンプンが主体ということになります。しかし、葉のデンプン蓄積は一時的なもので、夜間など光合成活性が低下すればブドウ糖などに分解され、葉緑体外へ排出、ショ糖を経由して各組織に輸送されます。
ここで、三炭糖リン酸がこの二つの経路へどのように配分されるかが大きな問題になります。一次同化産物は最終的には葉緑体外へ出され、ショ糖となって必要な部位に運ばれて成長に利用されたり、次世代のために貯蔵物質に変換されたりします。しかし、昼間は光合成的炭素固定活性が非常に高いので、三炭糖リン酸が大量に合成されます。その大部分を第1経路に送ってしまうと、ショ糖合成の速さとショ糖が他組織・器官へ運ばれる速さとの違いから、光合成をする細胞のショ糖濃度が異常に高くなり細胞の浸透圧が高くなって具合の悪いことになります。ここで細胞の調節作用が働いて、ショ糖が異常に蓄積しないように第2経路が働いて葉緑体内にデンプンを蓄積します。デンプンは水に不溶性ですからいくら蓄積しても細胞の浸透圧には影響を与えません。
第1経路を調節する一つの要因は細胞内の無機リン酸の濃度です。三炭糖リン酸の葉緑体外への排出は無機リン酸との交換反応ですので、細胞基質の無機リン酸濃度によって調節されます。実際、葉に光を照射すると、細胞質の無機リン酸濃度が減少することが知られています。細胞質中の無機リン酸が足りなくなると、それまで液胞に貯められていた無機リン酸が細胞質に供給されると考えられますが、葉緑体が必要とする無機リン酸の要求量に比べ、液胞から細胞質へのリン酸供給が十分でない時(例えば、肥料としてのリン酸が不足している時)は、細胞質中の無機リン酸濃度が下がり、結果として第2経路であるデンプン合成が進行すると考えられます。第1、第2経路配分の調節にはこの他たくさんの要因が働いており大変複雑な仕組みになっています。
次に、単子葉植物と双子葉植物での違いについて見てみます。上に説明した事柄は単子葉、双子葉の別なく共通のことです。しかし、一般に単子葉植物では茎が非常に短いので葉が貯蔵器官となる例が多く、光合成細胞から運ばれてきたショ糖を葉や茎に蓄積する傾向があります。ネギ、タマネギ、ラッキョウなどでは貯蔵器官となっている部分(鱗茎、実際は葉が主)でもデンプンでなくショ糖として蓄えられています。サトウキビ、トウモロコシの茎はかなり高濃度のショ糖を蓄積します。もちろん、細胞浸透圧が限界を超えない程度の蓄積です。
細胞内リン酸濃度の調節に関しては、神戸大学理学部 三村徹郎先生に加筆修正いただきました。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2009-07-03
今関 英雅
回答日:2009-07-03