一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物の発根作用

質問者:   会社員   卓生
登録番号2710   登録日:2012-08-03
発根で検索すると14の項目がヒットしてきました。しかし、ほとんどがホルモンの話と関連します。ホルモンが直接作用しているのは、解りますが、それ以外の要因について、自分なりに考えてみました。土壌中の養分が少ない時は多くの根を出して養分を吸収する。養分が多い時は根は少なく済む。これを根拠に根から吸収された養分は地上部へ移行し葉で作られた糖によりタンパク質や炭水化物となり地上部の生育に利用する。その時、根圏では養分不足となり発根が促される。その多くなった根で再度養分が吸収され・・・を繰り返し、植物は大きくなる。その時の土壌養分は多くは無い状態である。地下部と地上部の生育は交互に行われる。考え方としては正しいでしょうか、助言をお願いします。
卓生 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
「土壌中の養分が少ない時は多くの根を出して養分を吸収する。養分が多い時は根は少なく済む」を前提として「地上部と地下部(根)の発達が交互に行われるのではないか?」との解釈は、生態的に考えるといかにもありそうな話ではあります。しかし、残念ながらこの前提を立てる実験的根拠が見あたりません。多くの研究結果から、地上部の栄養状態すなわち炭水化物や窒素量、などが根系の発達に強い影響を与えていることは明らかです。栽培作物を用いた実験では、根圏土壌中の栄養は根圏以外の土壌中の栄養よりは貧栄養になることはよく知られています(植物体の活発な栄養吸収の反面、根圏以外からの栄養移動が間に合わないため、とされています)が、この貧栄養状態に適応して植物体が発根(あるいは根の成長)を増加させているとする結果は得られていないようです。シロイヌナズナという実験植物を用いた研究では窒素源(硝酸体窒素やアンモニア体窒素)を根にあたえると側根の数が増加したり、根の枝分かれが多くなったりすることが明らかにされています。しかし、この効果は窒素栄養が供給された効果ではなく、窒素の増加を根が感知して(窒素増加を信号として受け取って)その信号に応答したものと解釈されています。
イネ、蔬菜を含め栽培作物では一般的に根系の発達は地上部の栄養状態との間には明らかな相関はあります。また、樹木などの挿し木における発根(不定根形成)には、切り枝を採取する母体の年齢、栄養状態が大きく影響することも知られています。地上部の栄養状態は、その段階までの土壌栄養に依存していますから、土壌栄養がまずもっとも重要な要素であることになります。
したがって、現段階では、側根や不定根の形成の第一要因は植物ホルモンの供給(発根剤として外部からあたえても有効)ですが、根系の発達と言う高次の形成過程には地上部の健全な栄養状態(地上部からの植物ホルモン供給も含め)が必要だと考えられます。根圏土壌がそれ以外の土壌よりも「貧栄養」となるのは栽培作物などの成長の盛んな時期の一時的なものと見て良く(したがって適宜、追肥などが必要とされているわけです)、成長の遅い樹木などでは根圏土壌への栄養供給(移動)で十分賄われていると見られます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-08-06
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