一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の導管の染色

質問者:   一般   Masa
登録番号2724   登録日:2012-08-15
退職後小学校でJSTの理科支援員をしています。小学校6年生の理科で導管を染色する実験がありました。ホウセンカを食紅で染色するようになっています。やってみると全体が赤くなったようですが、教科書のように導管がきれいに染色されていません。また、染色後ホウセンカはすぐに枯れてしまいますので、次週の別のクラスの実験では使えません。

質問は以下とおりです。

①植物の導管の最適な染色剤と導管の細胞壁の電荷を教えてください。
染色試薬は色々あるようですので系統的に実験してみようと思います。市販の染色剤は化合物名が正しく書いてないので使えません。陽イオン性のものから、中性、陰イオン性の色素があるようです。
色素の吸着は細胞壁の電荷によると思います。陽イオン性色素は負の電荷をもつものに染まります。ヒトの細胞膜は負電荷(リン酸基)ですが植物の細胞液の電荷はどうなっているのでしょうか?その電荷を考慮しながら染色効果を見てみよと思います。
②よく使われる食紅の構造を教えてください。
調べてみましたがわかりませんでした。
③できれば、細胞壁の染色と細胞内の染色を同時に行いたい。その色素いくつか教えてください。
④ホウセンカ以外に染色に適している植物を教えてください。
一日で染色し、導管が良く観察できる植物

専門は分析化学、錯体化学、生物無機化学でしたので、分析色素はじめその構想や着色機構については経験があります。また、大腸菌のDNAを錯体を用いる選択的切断の研究はいたしました。その時にDNAを染色し電気泳動をいたしました。
しかし、生物には関心がありますが複雑すぎてよく分りません。どうぞよろしくお願いいたします。
Masa 様
このコーナーに質問をお寄せ下さりありがとうございました。この質問には東京大学の福田裕穂先生が下記のような回答文をご用意下さいました。ご参考にして下さい。


(福田先生からの回答)
小学校理科の実験では、根から食紅を吸わせ、道管(導管は間違いです)中を流れる食紅を指標に道管を検出しています。これは道管を染色するというより、道管内だけを根から吸収された水が流れるという性質を使った道管の検出法です。これには生きた植物が必要ですので、できるだけ植物に影響を与えない色素液を使います。水溶性の赤インクを使うことも良く行われます。

全体が赤くなってしまうのは、吸わせる時間が長いために道管内の液が他の組織に運搬されたか、根の水を吸う力が弱く、道管を速やかに動いていかないからだと考えられます。水を吸う力は、基本的には葉からの蒸散に依存します。ホウセンカは蒸散の大きな植物として選ばれているのではないかと思いますが、それでも、植物の葉の状態が悪かったり、まわりの湿度が高かったりすると蒸散の速度が落ちます。ですので、良い状態のホウセンカを使うことが一つの方法です。

一方で、道管を特異的な色素で染色することも可能です。染色は単に細胞壁の電荷だけで決まるのではなく、細胞壁成分の化学組成を利用しておこなわれます。ちなみに、細胞壁の電荷状態は細胞ごとに違うと考えられますが、通常の柔細胞ではpHが5.5前後と推定されています。

さて道管の染色ですが、まず、切片をつくり、これを固定したあとで、染色液で染色します。用いられるのはサフラニン染色やフルオログルシノール染色です。いずれも道管細胞の細胞壁に多く存在するリグニンと結合し、染色します。

1)フルオログルシノール染色:
フルオログルシノールは、塩酸存在下で、リグニン中のR--CH=CH-CHO部位と反応して、赤紫色を呈します。この染色をする場合は、固定を必要としません。
2)サフラニン染色
サフラニンはジメチルサフラニンやトリメチルサフラニンが主成分のようですが、これらがリグニンと反応して、やはり赤色を呈します。サフラニンはリグニンだけでなく他の成分も染色しますので、細胞内部を染色するためにも用いることができます。

福田 裕穂(東京大学大学院・理学系研究科・生物科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-09-12