一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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砂糖水とカビについて

質問者:   中学生   愛嵐
登録番号2737   登録日:2012-08-21
中学2年生でカイワレ大根の自由研究をしています。
調べる水溶液は、水道水・食塩水・砂糖水で
水道水以外の水溶液の濃度を20・40・60・80・100%にわけて実験を行いました。
すると、実験開始3日目に20%の砂糖水にカビが生えてしまいました。
そのまま実験を続けると4日目には中央部分をカビが占めてしまいました。
その後、5日目になると40・60・80・100%すべての砂糖水にカビが生えてしまったのですが、
濃度が低い順にカビが多いとなりました。
食塩水のほうにはカビは生えませんでした。
砂糖水の濃度が低いほうがカビは生えやすいということはこのサイトでわかったのですが、
いったい何故濃度が100%のものにまでカビは生えてしまったのでしょうか?
そして砂糖水の成分とカビの栄養分には何か関係はあるのでしょうか?
愛嵐 さん:

みんなの広場 質問コーナーのご利用ありがとうございます。
自由研究とは言え実験を行うための計画を立てるときに身の回りで知られている事柄はとても参考になるものです。愛嵐さん、ジャムや砂糖漬け、塩漬けはどうして保存食になっているかを考えてみて下さい。いずれも高濃度の砂糖(ショ糖)や食塩を加えたもので、常温に数日おいても細菌、カビなどの微生物が増殖することはありません。生物の細胞はいろいろな塩類、糖類が溶けた薄い溶液が細胞膜という薄い膜に包まれた袋と見ることができます。水に物質が溶けると溶液に浸透圧という圧力が生じます(正確には水の化学エネルギーが低下します)。浸透圧は溶液の濃度が高いほど大きくなります(水の化学エネルギーの低下が大きくなります)。
このような溶液の溶けた袋が別の溶液の中に浸されると、袋の外にある外液の浸透圧が袋内液の浸透圧よりも大きい(外液の化学エネルギーが内液の化学エネルギーよりも小さい)ときには、袋内の水が袋の外側にでてきてしまいます。逆に、袋内の浸透圧が高ければ(化学エネルギーが小さければ)外液から水が袋の中に移動します。水は、化学エネルギーの大きい方から小さい方へ移動するのです。
細胞内液の平均浸透圧は細胞の種類によって違いますが、5%から8%ショ糖溶液の浸透圧に相当すると見ることができます。ちなみに、動物では0.9%食塩水(生理的食塩水)の浸透圧に相当します。愛嵐さんが使われた20%以上のショ糖液、食塩水は、細胞内溶液よりも遙かに高い浸透圧をもっています。そのため、このショ糖液、食塩液に接した細胞では水が外にでてしまい、細胞は死んでしまします。細菌類でも、カビ類の細胞でも同じことです。そのためジャムや砂糖漬け、塩漬けは腐敗することなく保存食となるのです。
愛嵐さんが20%以上のショ糖液や食塩水をあたえたカイワレ大根はマーケットで買われたものと思いますが、普通はプラスチック容器の底にある、水を含んだスポンジの中に生えていますね。つまり、水があります。これに20%の砂糖水を加えたことになりますので、砂糖濃度はかなり薄まります。どのくらいの量の砂糖水を加えたのかが分かりませんが、スポンジに含まれていた水と同じ程度の20%砂糖水を加えれば濃度は10%位になるはずで、この濃度ではカビや細菌が生育することができます。そのため、もっとも早くカビが生えてきたのでしょう。40%以上の砂糖水の場合には、溶液に接したカイワレ大根の組織は死んでしまう筈です。カビも生えるのに苦労します。でも時間が経つと、根や茎の細胞が死ぬとともに砂糖溶液は毛管現象などで茎に沿って上昇する筈で、そのときには濃度はさらに薄まることになりカビが生えてきたのだと思います。
それでは何故食塩水のときにカビが生えなかったのでしょうか。第1に、10%食塩水は生物にとってとてつもない高濃度です。海水ですら約3.5%食塩水です。塩漬けも保存食品となっていますね。第2に、砂糖(ショ糖)は生物にとって栄養源となりますが、食塩はなりません(大切な成分ですが)。砂糖は薄まれば栄養源となり微生物は喜んで成育しますが、食塩だけでは薄まったとしても栄養源にはならないのでカビも細菌も生育しなかったと思われます。
最後に愛嵐さん、100%砂糖水はつくるのがとても難しいと思いますよ。溶液100グラムの中にショ糖が100グラム含まれなければなりません。ショ糖の溶解度は沸騰水で486グラム、摂氏20度で211.5グラムです。計算しなおして下さい。実際の濃度はかなり低いはずです。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-08-24