一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ワセリンを使った蒸散実験の真偽について

質問者:   教員   K2
登録番号2751   登録日:2012-09-06
 中学一年生で習う葉の気孔からの蒸散に関する実験の問題で、葉の表や裏にワセリンを塗ってその部分の気孔からの蒸散を停止させる操作が行われてますが、この操作を行うことによって、他の部分からの蒸散量が変化することはないのでしょうか?植物内部の水分状態によって気孔の開口に変化があるとするなら、例えば葉の裏の気孔をワセリンでふさいだとき、それによって植物内部の水分量が多くなって葉の表の気孔の開口が大きくなったり、あるいは開口する気孔数が増えるなどによって他の部分での蒸散量が増加するようなことがあっても不思議ではなように思います。そのようなことは実際には起こらない、あるいは無視してもよい程度のことなのでしょうか?入試問題などを見るとそのようなことは無視されていて単純な線形モデル(総蒸散量=葉表の蒸散量+葉の裏の蒸散量+茎の蒸散量)で考えられているようですが、一般的な生物の仕組み(例えばホメオスタシス)を考えると不思議な気がします。どうぞよろしくお願いいたします。
K2様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。あなたの中学校で指導しておられる植物の蒸散に関する実験が、実際にどのように行われているのか分かりませんが、多分御存知のように、蒸散の量は、使用する植物の種類、無傷の植物か切り枝か、葉の老若、枚数、どのように育てた植物か、実験の時刻、光、温度、風の有無、温度など、それに蒸散量の測定法などによって、影響されやすいのです。気孔は草本双子葉植物では一般に葉の裏面(裏側の表皮)に多く分布していますが、イネ科の植物のように葉が立っている単子葉植物ではでは、気孔は一般に両面に同じように分布しています。ツバキのように葉の表がクチクラでがっちりコーティングされている植物では気孔は裏面のみにあります。一般に樹木の葉は裏面だけのものが多いようです。スイレンやウキクサなどの水面に浮く植物は表面のみにあります。気孔はご存知のように茎、花弁、果皮等にも多少ありますが、葉の総面積の方が大きいし、密度も高いので、これらの気孔からの蒸散量はふつうそれほど問題にはなりません。もっとも若い草本の茎からの蒸散はかなりあるかもしれません。また、わずかですが、気孔を通さなで表皮から直接おこなわれる蒸発もあります。 
ところで、これらの気孔からの蒸散は何のために行われているかというと、草本植物では細胞が水をたっぷり吸い込んで、膨圧を高め、植物体を物理的に支持するためです。木本では幹の細胞の細胞壁が硬くなって支持構造をつくります。それと、水は根から吸い上げられるのですが、同時に土中に含まれる栄養分(主として無機の物質)がとりこまれます。水は光合成の材料となったり、細胞の酵素反応などに使われたりしますが、根から吸収される水の大部分は蒸散で空気中に放出されます。いわば植物体は濾過器のようなもので、吸い上げた水のごく一部は体内で使いますが、水に含まれる物質だけを体内へ残してあとはすてるのです。そして、捨てる仕組みである蒸散作用が、逆に水を吸い上げる動力となっているです。したがって、蒸散が盛んであれば吸水も栄養分の吸収も盛んになるのです。蒸散をコントロールする要因はさまざまあります。たとえば、水分不足などになると、気孔が開いていたのでは体内の水も失って枯れてしまいます。そこで、水不足のシグナルを感知すると、気孔を閉じさせるアブシジン酸という植物ホルモンが作られて、開いている気孔を早急に閉じさせ、気孔からの水分の消失をふせぐようになっています。これは一種のホメオスタシスと考えられます。以上のような仕組みですから、葉の両面にワセリンを塗って気孔を人為的に塞いでしまうと、蒸散は止まります。勿論葉以外の気孔からの蒸散と単なる蒸発は継続するでしょうが、通常は量的には微々たるものです。気孔が塞がれば、吸水も止まりますので植物の体内に水がたまりすぎる等という事はありません。気孔の開閉の仕組みや蒸散の役割等については、これまでにいくつかの質問があり、回答が掲載されていますのでご参照下さい.例えば、登録番号0634, 0708, 0910, 1580 など。なお、植物体からの総蒸散量は厳密には葉の両表皮からの気孔蒸散量+その他の器官の気孔からの蒸散量+植物体表面からの単純蒸発量ということになりますが、理科実験のレベルでは葉の気孔蒸散以外は考える必要はないでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-09-18
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