質問者:
その他
川内
登録番号0276
登録日:2005-06-09
とても初歩的な質問でおそれいります。萼片枚数の変化
キンポウゲ科などは花びらがなく、花びらに見えるのは萼ですよね。
葉の要素を残しているようですが、萼と呼ばれるものは枚数は一定しにくく変化がおきやすいのでしょうか。
園芸品種ではなく自生種のものです。
リュウキンカ、イチゲなど、隣同士の株でも枚数が違っていたりします。
図鑑などの紹介も5〜10枚などとなっているものが多くあります。
萼が保護と誘引の両方の役割をしている種類のほうが枚数が一定しないでしょうか、変化がしやすい種と変化しにくい種があると考えればよいのですか。
それは環境や遺伝的な要素がはたらいて変化が起こるものなのでしょうか?
このような質問でもお答えいただければ幸いです。
川内さま
先日、お寄せ頂いた質問の回答を、基礎生物学研究所の塚谷裕一先生にお願いしましたところ、以下のような、回答が寄せられましたので、お届けします。ご回答のなかで、塚谷先生の“植物のこころ”が参考文献としてあげられていましたが、先生の“植物の見かけはどう決まる”(中公新書)も読み易く、参考になると思います。
ご質問、拝見しました。おっしゃるようにキンポウゲ科では、花びら(花弁)があるべき場所に花びら状のものがないか、あるいは蜜腺になっていて、代わりに萼が花びら状に色づいていることが多いですね。ただ、同じキンポウゲ科でも、フクジュソウやキンポウゲなどは、しかるべき場所に花びらを持っていたりします。このグループは、花弁の性質が多様な科にあたります。
さて、ご質問の数の問題を考えてみましょう。花器官は、もともと葉を基本形とした器官と推定されています。葉は、もともと茎の周りにらせん状に並ぶ器官ですね。こうした葉と茎の集合体を、シュートといいます。花は、そのシュートが特殊化したものです。比較的原始的な性質を持つ植物は、萼片や花弁などの花器官が、らせん状に並ぶ性質を残していることが多く、またその数が厳密には決まっていないことが多いものです。キンポウゲ科だけでなく、例えばモクレン科もそうですね。花弁も雄しべも、雌しべの数すら数が一定しません。一方、花としての特殊化が進んだ植物、例えばアサガオなら、萼片は5枚、花弁も5枚と、決まった数、しかもらせんではなくそれぞれが同心円状に並んでいます。最も特殊化したグループであるラン科の花の場合も、萼片が3枚、花弁が3枚、それぞれ同心円状に並んでいます。花は、キンポウゲやモクレンのようなタイプから、こういう厳密な形に特殊化する傾向があったと考えられています。
一本の枝に着く葉の数を考えてみましょう。ご存じのように、多くの場合、葉の数は植物の栄養状態や個性(遺伝的違い)によって、一様ではありません。モクレンの花やイチゲの類のような花の場合は、花器官がらせん状に着く性質を残しています。つまり花器官が、葉としての性質を残している(あるいは、花がシュートの性質を残している)ために、数が一定しないとお考えいただければよいかとも思います。
いずれにしましても、こうした植物ごとの個性は、遺伝的に決まっているものと見ることができます。萼片の数が正確に決まっている植物の場合は、そのように厳密なプログラムとして遺伝子が書き込まれていて、数がふらつく植物の場合は、許容範囲が広いように遺伝子が書き込まれているわけです。そしてそういう場合は、環境に応じて必要な遺伝子の働きが調節され、その結果、萼片の数が特定の数になるという次第です。
以上でお答えになったでしょうか。もし機会がありましたら拙著『植物のこころ』(岩波新書)でも、関連した話題の解説を試みていますので、ご一読いただければ幸いです。
塚谷 裕一(岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所)
先日、お寄せ頂いた質問の回答を、基礎生物学研究所の塚谷裕一先生にお願いしましたところ、以下のような、回答が寄せられましたので、お届けします。ご回答のなかで、塚谷先生の“植物のこころ”が参考文献としてあげられていましたが、先生の“植物の見かけはどう決まる”(中公新書)も読み易く、参考になると思います。
ご質問、拝見しました。おっしゃるようにキンポウゲ科では、花びら(花弁)があるべき場所に花びら状のものがないか、あるいは蜜腺になっていて、代わりに萼が花びら状に色づいていることが多いですね。ただ、同じキンポウゲ科でも、フクジュソウやキンポウゲなどは、しかるべき場所に花びらを持っていたりします。このグループは、花弁の性質が多様な科にあたります。
さて、ご質問の数の問題を考えてみましょう。花器官は、もともと葉を基本形とした器官と推定されています。葉は、もともと茎の周りにらせん状に並ぶ器官ですね。こうした葉と茎の集合体を、シュートといいます。花は、そのシュートが特殊化したものです。比較的原始的な性質を持つ植物は、萼片や花弁などの花器官が、らせん状に並ぶ性質を残していることが多く、またその数が厳密には決まっていないことが多いものです。キンポウゲ科だけでなく、例えばモクレン科もそうですね。花弁も雄しべも、雌しべの数すら数が一定しません。一方、花としての特殊化が進んだ植物、例えばアサガオなら、萼片は5枚、花弁も5枚と、決まった数、しかもらせんではなくそれぞれが同心円状に並んでいます。最も特殊化したグループであるラン科の花の場合も、萼片が3枚、花弁が3枚、それぞれ同心円状に並んでいます。花は、キンポウゲやモクレンのようなタイプから、こういう厳密な形に特殊化する傾向があったと考えられています。
一本の枝に着く葉の数を考えてみましょう。ご存じのように、多くの場合、葉の数は植物の栄養状態や個性(遺伝的違い)によって、一様ではありません。モクレンの花やイチゲの類のような花の場合は、花器官がらせん状に着く性質を残しています。つまり花器官が、葉としての性質を残している(あるいは、花がシュートの性質を残している)ために、数が一定しないとお考えいただければよいかとも思います。
いずれにしましても、こうした植物ごとの個性は、遺伝的に決まっているものと見ることができます。萼片の数が正確に決まっている植物の場合は、そのように厳密なプログラムとして遺伝子が書き込まれていて、数がふらつく植物の場合は、許容範囲が広いように遺伝子が書き込まれているわけです。そしてそういう場合は、環境に応じて必要な遺伝子の働きが調節され、その結果、萼片の数が特定の数になるという次第です。
以上でお答えになったでしょうか。もし機会がありましたら拙著『植物のこころ』(岩波新書)でも、関連した話題の解説を試みていますので、ご一読いただければ幸いです。
塚谷 裕一(岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03
柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03