一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ニガウリ、その他の種子の模様や色について

質問者:   その他   野いちご
登録番号2769   登録日:2012-10-13
こんにちは。昨年ラッカセイの不思議についての質問に柴岡先生から御丁寧な回答を頂き有難うございました。
さて今年も本格的なニガウリの季節がやって来ました。以前ある方がニガウリの種を見て「鳥等に喰われないようにハブ(蛇)のような模様がついているおだろうか」と言っておられました。家庭菜園の先輩だったので、ああ、この方はこういう物の見方をされるのかと思ったものでした。
木の実は種子を遠くへ運んでもらうため熟すと鳥に好かれる色になるのかなとも思いますが、やはり種は何かに喰われない様に自衛目的で模様がついているのでしょうか。インゲンマメ等は色、模様共に多様ですが、どういう目的のために、あの様に色・模様を付けているのでしょう。野菜なので人の手がかなりはいった結果なのでしょうか。
教えていただきたくお便り差し上げました。
よろしくお願い申し上げます。
野いちごさま

お返事が遅くなりましてすみません。ニガウリの季節が終わらないうちに、何とかお返事が届くといいのですが。

まずはニガウリについて。
ニガウリは緑色の未熟果を収穫して果皮の部分を食用とします。果皮はとても苦く、無言で動物に「食うなよ」と主張しています。緑の未熟果は目だちません。うっかり見逃して収穫が遅れると、緑色の果皮は黄色に変わり、あれよという間に裂けて反り返って中のタネをさらけ出します。これが驚いたことに真っ赤。鮮やかな黄と赤の対比が目を引きます。
 赤いのはタネそのものではなく、硬い種子の周りの部分。これはカキの種子を包んでいるゼリー質の部分と同じく、内果皮にあたります。ニガウリの内果皮の部分は、未熟なうちは白いスポンジ状ですが、熟すと半透明の真っ赤なセリ―質に変わり、とても甘くてフルーツのようにおいしく食べられます。
 赤い色は鳥の目を引きます。「ここよ、食べてね。もう甘いわよ。」赤いタネはそう言っているのです。そうやって鳥にわざと食べられ、のどを通りやすいゼリー質にくるまれたまま、鳥の胃の中に滑り込み、糞に出してもらって新しい場所に運んでもらおうという種子の戦略なのです。ニガウリの原産地は熱帯アジアなので、サルも甘いタネを食べるかもしれません。いずれにしても、赤いゼリーごと種子は動物に飲み込まれます。おそらく、食べる前に鳥が種子の模様を見ることはないでしょう。
 では、ハブ模様はなんのためにあるのでしょう?
 ニガウリの黄色く割れた熟果を観察しました。赤い内果皮を剥いた新鮮な種子は茶色で、長径約13-14mm、短径約7㎜の、ちょっと角ばった長楕円形(あるいは長6角形)をしています。質問の「ハブ模様」は、楕円の中心に細長いざらざらした凹面部分が、なるほど、確かに琉球絣(かすり)の文様を思い起こさせます。
 ニガウリの種子は厚みが約3㎜もあり、その厚みの側面にも、よく見ると、細かい凹凸が刻まれています。指で触れてみるとまるでゴムのような弾性があり、なでようとする指が引っ掛かってぴたっと止まってしまいます。この感触は、絨毯や玄関ラグの下に敷く「ずれ防止マット」にそっくりです。
 ・・・もしかしたら、本当に「ずれ防止マット」なのかもしれません!? 滑りやすい赤いゼリーの層が、簡単に剥けてしまわないように、剥がれてしまわないようにするための。もし、簡単にはがれてしまって、鳥や動物が、その場で消化できない種子を捨てて、赤いゼリーだけ食べてしまったら、ちっとも種子は運ばれません。確実に種子がおなかに収まるようにするためには、飲み込まれる瞬間までゼリー質がはがれ落ちないように工夫した方が有利なはずです。
 種子が乾くにつれて滑り止めのような感触は失われ、色も白っぽくなって、もようはさらにくっきりしました。種子表面の凹凸模様は、種子の外層の膨潤にも関係しているようです。発芽を前にした吸水にも関わっている可能性もあります。

 さて、もう一つ質問がありました。インゲン豆などに見られるまだら模様についてです。
 こうした豆は、鳥に食べられて種子が運ばれるわけではなく、熟すとさやが弾けたり風に飛ばされたりして種子が散ります。種子は地面に落ちて発芽を待ちます。
 栽培品種では、模様の美しいものが選抜されたりした結果、野生のものよりも模様が鮮やかでバラエティーも豊富です。でも、野生植物でも、たとえばクズの種子のように、表面にまだら模様がついているものがあります。
 地面に落ちた種子は動物に狙われます。そのとき、全体が同じ色をした単色の種子よりも、まだらのある種子の方が、野外では目立たない可能性があります。地面に卵を産むチドリやウズラの卵に斑紋があることを思えば、マメの表面のまだら模様も、同様に「迷彩服」の役割を果たしているのではないでしょうか?
 本当に「迷彩服」なのかどうか、実験してみたら楽しそうですね。本格的な実験でなくても、たとえば模様つきとそうでない豆を芝生や地面にばらまいて、子どもたちで拾い集める競争をしたらどっちが勝つでしょうね?
 
 植物によって種子の形やもようや色は違います。中には、虫の糞を擬態しているとしか思えないような色や形状の種子もあります。砂粒にそっくりの種子もあります。でも、まだ本当のところはわからないことだらけです。これからも大いに疑問をもって、調べたり実験したりして見てくださいね!
立教大学・東京農工大学・非常勤講師
多田 多恵子
回答日:2012-10-13
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