一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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被子植物の胚のうにおける反足細胞と助細胞の役割について

質問者:   一般   つっきー
登録番号2771   登録日:2012-10-13
被子植物の胚のうの図をみていたら、核相がnの胚のう細胞が3回核分裂して胚のうになっていました。
この3回分裂してできた核が1つの細胞に存在していることになるのでしょうか。
また、卵細胞における反足細胞と助細胞は共に退化すると記載されていましたが、何か役割があるのでしょうか。
つっきー様

本コーナーに質問をお寄せ下さり有り難うございました。
この質問には植物の受精のメカニズムについて研究されている名古屋大学の東山哲也先生が下記のような回答文をご用意くださいました。ご参考にして下さい。


(東山先生からの回答)
胚嚢がつくられる過程は、ご指摘の通りです。減数分裂の結果生じた核相nの細胞が、細胞質分裂を伴わない3回の同調的な分裂を行い、核が8つになった時点で細胞化します(細胞の仕切りができます)。中央細胞だけは核(極核)を2つ持つように細胞化しますが、他の細胞は、核を1つずつ持つことになります。植物種に応じて胚嚢の構造(細胞の数や配置)は異なりますが、ここで説明したのは、最も一般的に見られるタデ型(Polygonum type)と呼ばれるタイプです。

反足細胞は、たとえばモデル植物のシロイヌナズナでは、胚嚢の成熟に伴いしだいに退化するのに対し、トウモロコシでは反足細胞がさらに分裂を続け数を増やしたりと、植物種による差が大きい細胞です。生殖に対する特定の機能は提唱されていません。ただし、反足細胞や、あるいは受精後の胚乳の細胞で最も反足細胞側にある細胞など、このあたり(胚嚢の合点側と言います)にある細胞が胚乳への養分の通り道にあり、その供給にとって重要であろうと考えられています。

助細胞の機能は、最近遺伝子レベルでも解明が進んでいます。花粉管を誘引し、到達した花粉管の破裂、すなわち花粉管内にある精細胞の放出を促す働きがあります。助細胞の出す誘引物質は、トレニアという植物において、我々が初めて見つけることに成功しました。ルアー(LURE)と名付けたのですが、70アミノ酸ほどが連なったペプチドでした。

花粉管の内容物放出に伴い、2つある助細胞の片側が崩壊し、精細胞を胚嚢内に受け入れることで受精に致ります。最近、精細胞が放出されたものの受精に失敗した場合は、残った助細胞がもう1本の花粉管を誘引して受け入れて、受精の失敗を回復することが、シロイヌナズナで明らかになりました。1本目の花粉管で受精に成功すると、残りの助細胞は誘引を止め、退化に向かうとされています。以上のように、助細胞は名前の通り、献身的に働き、受精の成立を助ける細胞であると言えます。

東山 哲也(名古屋大大学院・理学研究科・生命理学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-10-26