一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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エノコログサの穂から直接発芽することがあるのでしょうか

質問者:   一般   三角文彦
登録番号2772   登録日:2012-10-15
野草に興味があり、散歩がてらに近所の公園や田んぼ空き地などの野草を写真で収集しています。先日、近くの公園でエノコログサの穂が異常な形をしているのを見つけました。穂は奇形なのか、病気なのか、よくみるとトウガラシをごく小さくしたようなグニャグニャした形の芽の様なものが、たくさん出ていました。何なのでしょうか。
三角文彦 様
ご質問をありがとうございました。別に写真もありがとうございました。
これは穂の発芽ではないと思います。この質問には植物の病気のことについてお詳しい岡山大学の白石先生が回答文を用意して下さいましたので、ご参考にして下さい。


(白石先生からの回答文)
写真を拝見する限り、これは、エノコログサ黄化萎縮(おうか・いしゅく)病という病気と思われます。特徴は、個体全体が黄緑色、黄色、黄白色になり萎縮し、後に一部が褐変化します。お送り頂いた写真は、穂から稈が叢生(茎芽が密生して発生)しているもので、この他にも、葉の縮れや奇形、穂の葉化(本来の花芽が葉になる)が特徴です。これらは菌瓔(菌えい)といわれるもので、この形態異常の原因は、オーキシンやサイトカイニンなど植物ホルモンの異常分泌です。この菌の学名は、Sclerophthora macrospora (Saccardo) Thirumalachar, Shaw et Narasimhanといいます。分類的には、真核生物ドメインのクロミスタ界(褐藻類の近縁)に属する卵菌類のピシウム菌科の病原菌で、近縁の病原菌としては、アイルランドジャガイモ飢饉の原因となったジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)や苗立枯などを惹き起すビシウム病菌 (Pythium spp.) がいます。この病原菌は、エノコログサだけではなく、重要作物のイネ、オオムギ、コムギなどの他、イネ科雑草のカズノコグサ、カモジグサ、スズメノカタビラ、メヒシバなどにも寄生できます。感染の適温は15〜20℃(春や秋)で、罹病植物上に形成されたレモン型の胞子(遊走子嚢といいます)が風や水で運ばれた後、遊走子が内部から泳ぎ出して、新たな宿主植物に感染し、病気を惹き起します。このように、この病原菌の感染には、水が必要で、降雨や冠水の直後に激しく発病することがあります。また、気をつけないといけないのは、水や温度など環境条件が整った場合、罹病している畦畔雑草が第一次伝染源となり、イネ科作物の発芽苗や幼苗に伝染が起こることです。環境条件が悪くなると有性生殖を行い、罹病組織内に厚膜の卵胞子 (Oospore) を形成して、越冬、越夏します。

白石 友紀(岡山大学農学部・植物病理学)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2012-10-26
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