一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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不完全優性について

質問者:   一般   つっきー
登録番号2776   登録日:2012-10-21
いろいろな遺伝で不完全優性というのを知りました。
マルバアサガオの花の色が例に出されていて、赤色(RR)×白色(rr)を親にPはRrで桃色となっていました。
この場合は、Rが多いほど赤色の色素が多くできて赤色となり、Rとrが等しいと白と赤の中間となり、rのみだと白色となるのでしょうか。

また、その他の例として、サクラソウの花の大きさの例で、大形(AA)×小形(aa)でF1が中形(Aa)となっていました。Aのみだと花の大きさに関する物質がたくさんできて大きくなり、Aとaが等しいと中形、aのみだと小さくなるということでしょうか。

不完全優性の植物の他の例はあるでしょうか。
教えてください。お願いします。
つっきー さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
花の色は、色のもととなる色素を合成できるかどうかで決まり遺伝子の働きの問題です。不完全優性を起こす原因には2通りの仕組みがあることがわかっています。花の赤色素の多くはアントシアニンで、その生合成に関与する遺伝子の一つ(R遺伝子とします)に変異が生ずると(rと表記します)色素を作ることができなくなり、白色花となります。R遺伝子の働きは色素を作る酵素を作る指令を出すことで、r遺伝子はその指令を出せないように変化したものです。遺伝子が出す指令の実体は、酵素タンパク質の構造情報を持ったmRNAで、このmRNAが翻訳されて酵素タンパク質になりますがmRNAの量が多ければ酵素タンパク質もたくさん作られると考えてください(実際はもっと複雑な制御機構が働いていますが)。遺伝子は2個が1対となっています(父親由来と母親由来の対)が、多くの赤花では正常なR遺伝子1個だけで十分な量の酵素分子が作られ、赤い親と同じ程度の赤色を示すほどに赤色色素が作られます。そのため、Rrの遺伝子組成を持つ子供は赤く見えます。ところがマルバアサガオでは、R遺伝子の働きが弱く、1つだけ十分な酵素タンパク質がつくられないのでアントシアニン色素量も少なくなります。マルバアサガオのr遺伝子は全くmRNAを合成できないほどに変異しており酵素タンパク質も作られませんのでRrでは色素量はRR親の半分と考えてもいいでしょう。そのため、Rrでは薄い赤、つまり桃色と見えることになります。メンデルの優性の法則は、肉眼での観察結果に基づいたものです。R遺伝子の働きが強いので、Rrでも肉眼ではRRとは色の区別できない程に色素が作られた結果です。R遺伝子の働きが弱いマルバアサガオでは、mRNA量を測ってみるとRrではRRよりも少ないことが示されています。これは遺伝子量効果と呼ばれていて、mRNA量で見ると多くの遺伝子について遺伝子量効果のあることが明らかにされています。
もう一つの仕組みは少し違います。キンギョソウの花色遺伝でも不完全優性現象がありますが、これは白色花となるr遺伝子の変異の中身に2種類があるためによります。1つはマルバアサガオの場合と同じくmRNAを全く作ることが出来ないほどに変異してしまったもの(遺伝子機能を完全に失ったものでこの場合は優性の法則が適用されます)。もう1つの変異はR遺伝子に部分的な構造変化がおきたもので、mRNAは作られますがタンパク質を作ることはできないものです。 RrではRのmRNA(R)とrのmRNA(r)が作られますが、mRNA(r)はR遺伝子の働きを抑制してしまいます。そのため、R遺伝子そのものの働きは十分に強いのですが、mRNA(r)のために働きを弱められるので十分量の酵素タンパク質を作ることが出来ず、したがって色素も十分に合成されないのでRrでは中間色になるというものです。
 ご質問にあるサクラソウの花の大きさの遺伝形式についての出典は何でしょうか。研究論文としてご指摘のような記載は見当たりませんでした。「サクラソウ」あるいは「プリミュラ」とされている園芸品は種、品種も変異も多く、それらの形質は量的形質変異によるものであまり遺伝解析はなされていないようです。
 最後に、不完全優性は肉眼的に判定できる範囲ではオシロイバナの例があります。ちなみに人のABO型の血液型も不完全優性の例といえるでしょう。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2012-11-05
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