一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の生活環と世代交代について

質問者:   一般   つっきー
登録番号2777   登録日:2012-10-21
植物の生活環と世代交代について、いろいろと疑問を感じましたのでお願いします。

1.胞子体と配偶体について
 胞子体(2n)と配偶体(n)について教えてください。
 被子植物の胞子体は、普段目にしている植物体ということでしょうか。また、配偶体は花粉と胚のうのうち、卵細胞でしょうか。それとも胚のう全体でしょうか。
 シダ植物では、例えばイヌワラビの場合は胞子体は食べている部分でしょうか。また、配偶体は前葉体といわれるもの全体を示すのでしょうか。
 コケ植物では、例えばスギゴケの場合は胞子体は胞子のうと呼ばれるもので、配偶体は、普段目にしてる植物体の雄株・雌株でしょうか。

2.配偶体と胞子体の大きさについて
 図鑑を見ていると、
 被種植物(サクラ)では、胞子体が巨大で配偶体が極小で、
 シダ植物(イヌワラビ)は、胞子体が前葉体である配偶体より大きく、
 コケ植物(スギゴケ)は、形は違うのですが、胞子体が配偶体にくっついていて、それほど大きさに違いはありませんでした。
 被種植物やシダ植物では、胞子体が大きく、シダ植物では配偶体が大きいのは、進化や環境等、何か要因があるのでしょうか。

3.シダ植物の配偶体について
 シダ植物の配偶体である前葉体には造卵器と造精器がくっついていますが、どちらかが寄生している状態なのでしょうか。

いろいろと質問しましたが、植物の生活環と世代交代は複雑でわかりにくかったので、よろしくおねがいします。
つっきー様

ご質問承りました。生活環は最初はわかりにくいのですが、いろいろな生物を比較すると進化の道筋が見えてくるので、とても楽しい分野です。

1.胞子体と配偶体について
陸上植物は生活史の中で2回単細胞になります。一つが受精卵、もう一つが胞子です。胞子体は受精卵から発生する体で減数分裂をして胞子を作り単細胞に戻ります。配偶体は胞子から発生する体で受精によって受精卵を作り単細胞に戻ります。被子植物の胞子体は普段目にしているものです。葯の中で減数分裂によって花粉(注1)ができます。花粉細胞は分裂して花粉管細胞と2つの精細胞になります。これら3つの細胞が配偶体です。種によって違いがありますが、ナズナなどでは、花粉が散布される頃には花粉の中で花粉管細胞と精細胞が分裂しているので、飛んでいるのは胞子ではなく配偶体です。雌しべの胚珠の中では胚嚢母細胞が減数分裂して胚嚢細胞ができます。これが胞子です。胚嚢細胞は胞子体組織の中に埋まっていますので飛散しません。胚嚢細胞は体細胞分裂を繰り返し多細胞の胚嚢を形成します。胚嚢が配偶体です。胚嚢を構成する細胞の1つが卵細胞へと分化します。ですから、胚嚢は配偶体全体で、卵細胞は配偶体の一部の細胞です。
(注1)花粉:被子植物の胞子を花粉と呼びます。裸子植物は日本の教科書では花粉として扱っていますが、裸子植物は花(雄と雌の生殖葉が短い枝に形成される器官)を作りませんので、小胞子と呼ぶのが正しいです。

イヌワラビを含むシダ類の場合は、食べている部分は葉ですので胞子体、前葉体は配偶体です。

スギゴケを含むコケ植物セン類の場合は、茎葉状の部分(茎葉体)が配偶体で、配偶体から長い柄を伸ばして先端に胞子嚢をつける部分が胞子体です。胞子体は先端の胞子嚢(胞子の入っている袋)、柄、茎葉体とのつなぎ目(あし)を併せたものです。

2.配偶体と胞子体の大きさについて
配偶体と胞子体の大きさについては、ともに大きい方が遠くに子孫(胞子や受精卵)を散布できるので小さいものよりも適応的です。ただ、大きいと他の動物に見つけられて食べられてしまう可能性もありますので、デメリットも考える必要もあります。

維管束植物(シダ植物と種子植物)の共通の祖先において、永続的に胞子体を成長させる機構が進化し、胞子体は大きくなりました。

3.シダ植物の配偶体について
造卵器と造精器は前葉体の一部(器官)ですので、(手や足が体に寄生していると呼ばないように)寄生とは呼びません。
JSPP広報委員長
長谷部 光泰
回答日:2012-11-02
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