一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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「異形葉の形成」を誘発する最大の外的要因は、「日照量」以外では他に何があるのでしょうか。又、「異形葉を形成する植物」は繁殖力や生存能力が強い傾向にあるのでしょうか。

質問者:   一般   Titanium
登録番号2778   登録日:2012-10-25
「異形葉」を形成する著名な植物(主として木本類)としては、クワ、ノブドウ、オヒョウニレ、ダンコウバイ、カクレミノ 等が在り、それぞれバリエーションの在る、印象深い自然造形性を提起しています。

今回、参考用として「アカメガシワの異形葉」を提示致します。(下記Yahoo box アドレス参照下さい。)

http://box.c.yimg.jp/res/box-s-mmpsmlpig2e3l6expu5q5cwly4-1001?uid=51daa113-dac3-4802-873c-69aeff0c0215&etag=a8c112ee1351201439370818

既知のとうりアカメガシワは本州には極普通の、極めて繁殖力の強い照葉樹であり、荒地の典型的パイオニア木本類、半年で1m前後に急成、いくら伐採しても生残した根から多数の地上幹を出し続け、幹枝の強靭な弾性で風雨に強い、病害虫に対し強い耐性、種子の寿命は土中で100年以上と、強靭な繁殖力・生存能力を有しております。クワ、ノブドウも(及びオヒョウニレも北海道以北に於いては)、地域により、同様の強靭な繁殖力/生存性を提示しております。

葉の主たる役割が陽光のレセプターで在る以上、「異形葉の形成」の主たる目的は、表面積の機敏・迅速な変更による「受光量の効率化」である事は、一般人でも一応類推出来ますが、本件に特化した、示唆に富んだ文献は、僅少な感が在ります。

そこで標題のとうり質問致しますが、
※「異形葉の形成」を誘発する最大の外的要因は、「日照量」以外で他に何があるのでしょうか。又、「異形葉を形成する植物」は繁殖力や生存能力が強い傾向にあるのでしょうか。 
Titaniuさま
 みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。異形葉の定義ですが、幼形(幼植物の時の葉)・成形(生長後の葉)を入れたり入れなかったり、不等葉と区別したりしなかったりなど、しっかりと決まっていないようですが、「一つの個体に形や大きさの異なる普通葉生ずる場合をいう。」(図説「植物用語事典」・八坂書房)あたりが妥当なのだと思います。さて、Titaniumさんは異形葉の生じる理由を受光量の効率化と考えておられるようですが、Titaniumさんが取り上げたアカメガシワやカクレミノなどの場合について異形葉が光に対しての適応として生じたとする研究結果は、得られていないと思います。従って文献もないと思います。同じ個体の中の、光の弱い場所の葉(陰葉)が強い光の場所の葉(陽葉)に較べて、厚さが薄く、葉の面積が大きいことは光の利用の面から考えて、適応した形と考えられますが、アカメガシワ、カクレミノなどの場合、異形葉の生じる理由を「受光量の効率化」と考える根拠は見当たりません。異形葉に関しては登録番号 0827 「タカノツメの幼葉について」,1165 「葉の形成を影響するものは」,2759 「アサガオは、同じ蔓でも葉の形が違うのはなぜですか」が参考になると思います。さて、ご質問の「異形葉形成を誘導する最大の外的要因」ですが、水条件・乾燥条件をあげることが出来ます。水条件・乾燥条件に関する異形葉に沈水葉・気中葉があります。水生植物で、水中にいる時に出来るのが沈水葉で、植物によって異なりますが、一般的には葉が細く分かれていたり、薄く大きく広がっていたりして、表面積を大きくしています。水の中に僅かしか溶けていない酸素や二酸化炭素を取り込むのに適した形です。気孔はありません。生長をして茎の先端が気中に現れた後に出来るのが気中葉です。葉肉細胞が発達して葉は厚くなり、面積は小さくなり、表面は水を通し難いクチクラ層で覆われるようになります。気孔が発達して来ます。乾燥に耐えながら光合成をするのに適した形です。最後の質問「異形葉を形成する植物は生存能力が強いか」については、異形葉を作るか作らないか以外の性質が全く同じの植物を較べなければ答えが出せませんので、きちんとした回答は出来ません。ただ、山歩きをしながら、色々な樹木を見ていての感想ですが、異形葉を作るか作らないかと生存能力との間に、関係はないのではないかと思っています。植物の百科事典(朝倉書店)の異形葉の項や、植物は形を変える(共立出版)の水条件・乾燥の項が参考になると思います。入手困難と思いますが、植物器官学(裳華房)の葉の幼形成形・異形葉・不等葉の章も出来れば読んで下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2012-11-05