一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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比較組織学

質問者:   その他   山田 康二
登録番号0278   登録日:2005-06-14
今学校の卒論の予備実験で「比較組織学」の情報が必要なのですが、どなたか精通している方や大まかな概要をご教授願えませんでしょうか。
山田康二さま
 貴兄からの具体的な質問について、葉の形態、主に縦横の長さの遺伝的制御機構についての研究を為さっておられる、基礎生物学研究所の塚谷裕一先生に回答をお願いいたしましたところ、次のようなご回答が寄せられました。私も読んでみて、貴兄の参考になるに違い無いと思いました。しっかりと読んで下さい。6/22
 柴岡 弘郎(JSPPサイエンスアドバイザー)

回答をお願いした先生から、「問い合わせがあまりに抽象的で答えにくいのですが・・・どうしましょう。」とのお返事を頂いたので、質問者に以下のメールを送り、質問し直して頂いた。
 柴岡(JSPPサイエンスアドバイザー)

山田 康二さま
 みんなの広場へのご質問有難うございました。貴兄のご質問を、その分野に精通していると私が考えた先生にお廻し下のですが、その先生から、「問い合わせがあまりに抽象的で答えにくいのですが・・・どうしましょう。」とのコメントをいただきました。ご質問の内容を、もう少し、具体的にお教えいただければ、幸いです。6/20
 柴岡 弘郎(JSPPサイエンスアドバイザー)

 度重なるご返事ありがとうございました。初めての質問でどのような形で質問するべきなのか分からず、このような抽象的なものですみませんでした。
 私は今、チャ節の木の葉の内部形態を観察、測定することで種ごとの細かい形態の特徴を探していき、それらを地理的分布と比較していきたいと思っています。ただいま切片をつくり、内部組織を観察していくうえで、面白い違いなどがあり、ぜひデータとしてどんどん残していきたいのですが、比較形態学的にはどのうような視点から見るべきなのか、またどのような点で比較する際に注意しないといけないのかということを教えていただきたいなと思います。


 山田さん、ツバキ属チャ節の葉の内部組織形態の比較解析ですか。かなり専門的なご質問ですね。対象はイラワジ種とかになるのでしょうか。種ごとの違いを解析するという点で、気をつけないといけないのは、1つは葉の可塑性です。ご存じのように、特に樹の場合は、1つの株の中でも、被陰された枝に着いた葉と、陽光にさらされている葉とでは、葉の構造が大きく異なります。柵状組織の細胞が葉の厚さ方向に伸びるかどうか、また、柵状組織の層の数がいくつになるかも、それで変化します。おそらく、タンニンなどを貯める異型細胞の頻度や分化程度も、生育環境で変化するでしょう。そのあたり、解析対照とする葉が、それぞれ同一の環境下で発達したものかどうかが、かなり重要なポイントだと思います。
 それをクリアした上での比較となれば、これはもう、虚心坦懐に見ていくことでしょう。違いは「ある」と思うと見えてくるものです。一方、幻影というのも、思いこみによって生まれてきます。例えば、切片はあくまで細胞の一断面ですから、錯覚も生じやすくなります。つねに、立体的な構造の中で、どこを見ているのかを注意して解釈する必要があります。そのバランスをとりながら、沢山のサンプルを見比べていくのが、大事だと思います。また、違いのヒントとしては、縁の遠い種の葉を比較するというのもあります。チャ節なら、少し離れたところのキンカチャとかヤブツバキ、あるいはもっと遠縁でヒサカキとか。極端な違いを見ておくのは、目を慣らすのに良いと思います。あと、内部というのにこだわりすぎずに、例えば走査電顕で表皮を見てみるなどもやってみるといいかもしれません。また、切片で観察する場合、えてして人は横断面や縦断面でしか見ないものですが、この「みんなのひろば」の画像ギャラリー「細胞のすきまが作る斑入り」の例のように、並皮切片(表皮に平行な面での切片)にしないと、違いがよくわからないような構造もありえます。いろいろ試していきましょう。

 塚谷 裕一(岡崎統合バイオサイエンスセンター/基礎生物学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
 柴岡 弘郎
回答日:2009-07-03
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