一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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VA菌根菌について

質問者:   高校生   aiuaa
登録番号2786   登録日:2012-11-14
私はVA菌根菌に興味があります。VA菌根菌は乾燥に強いという効果がありますが、乾燥に強いといっても、砂漠地帯に接種して、作物を育てることは可能ですか?
また、砂漠地帯にも利用できるなら、水分がほとんど無いなかで、水分が無くなり持続して育てられなくなる事はないのですか?
また、リンなどを吸収しやすくなるということですが、土の中の栄養が少なくなり、だんだん吸収力が弱まることはないのですか?
よろしくお願いします。
aiuaa さん

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。 あなたの質問については、AM菌の研究をなさっておられる大阪府立大学大学院生命環境科学研究科の秋山康紀先生に回答をお願いしました。先生はさらに、東北大学大学院農学研究科の齋藤雅典先生と畜産草地研究所の小島知子先生にも相談されて以下の回答を作成して下さいました。 大変分かり易い解説をいただいていますが、さらに質問がある時は、学会ホームページのみんなの広場の方へ送って下さい。


【秋山先生からの回答】
みんなのひろばへの質問ありがとうございます。
すでにVA菌根菌に興味があるということですので必要ないかもしれませんが、まずVA菌根菌についての一般的な説明から始めたいと思います。

VA菌根菌(最近はアーバスキュラー菌根菌、AM菌と呼ばれることが多いです)は植物の根に共生する菌類(カビ)で、約80%以上もの陸上植物と共生していることが分かっています。VA菌根菌は土壌中のリンや水などを供給して植物が健全に生育するのを助け、その見返りとして光合成産物である糖類を植物からもらうという相利共生関係を結んで生きています。VA菌根菌が登場したのは約4億年前であることが分かっています。これはちょうど植物が水中から陸へ上陸した頃とよく一致しています。当時の原始陸上植物は仮根と呼ばれるとても貧弱な根しかもっていなかったため、水中と違ってリンや水に乏しい陸上で生きていくのにVA菌根菌による助けが不可欠であったと考えられています。こうして、VA菌根菌は太古の昔から植物の生存を地面の下から支え続け、今日の緑の地球を作り上げるのに大きな役割を果たしたと考えられています。

さて、質問に回答する前に正直に書いておかないといけないことがあります。確かに私は16年間ずっとVA菌根菌の研究をしてきた一専門家です。でも、今回の質問は私が普段考えていることや知っていることを超えている部分が多かったので、この方面に詳しい齋藤雅典先生(東北大学大学院農学研究科)と小島知子先生(畜産草地研究所)に相談しながら回答を作成しました。

まず始めにご質問のVA菌根菌の接種(共生)によって砂漠地帯で作物を育てられるかどうかについてです。砂漠地帯にも砂漠植物と呼ばれる乾燥にとても強い植物が生息しているのはご存じだと思います。砂漠植物はわずかな水分でも生育できるような様々な性質を持っているのですが、根にはVA菌根菌が共生していることが分かっています。ですので、VA菌根菌が砂漠植物の水分ストレスを緩和することにより生育を助けている可能性が指摘されています。
では、ご質問にある「作物」ではどうかということですが、たとえVA菌根菌の力を借りても砂漠地帯で生育させるのはかなり難しいと考えられます。作物は歴史的に人の手によって生育に適した水分や栄養を与えられた条件で選抜育種されてきていますので、砂漠植物とは違って生育に必要な水分の量がかなり多いのです。ですので、そもそも水分の少ない砂漠地帯ではたとえVA菌根菌の力を借りても生育に十分な水分を得ることができず、うまく育たない可能性がとても高いと考えられます。もともと乾燥に強い作物については、VA菌根菌を利用して乾燥地で生育させる試みがなされています。やはり、植物の生育にはそれぞれの植物に適した最低限の水は必要であって、その範囲内においてVA菌根菌は効果を発揮すると考えてよいと思います。ただ、現在、世界的に問題となっているような、元々は緑地であったところが環境悪化などにより砂漠化したり、荒地化したようなケースでは、再緑化にVA菌根菌が有効であることが様々な実用例から証明されています。 
次に、リン栄養に関する質問についてです。農地などのように収穫により植物を引き抜いてしまうような場合は、リンは植物ごと持ち出されることになりますから、土壌のリンはだんだんと減っていきます。ですので、肥料や堆肥などを入れて、土の養分を補給する必要があります。でも、山野などの自然の生態系では植物の遺骸や動物の糞便が土壌中の小動物や微生物などにより分解されることでリンが再び土壌中に戻されます。このリンをVA菌根菌(樹木では外生菌根菌という別の種類の菌根菌が役目をはたしているのですが)が植物に渡してやることでリンをうまく循環させているのです。こうして自然生態系では限られたリンしかなくても菌根菌の助けを借りて多様な植物が生息できているのです。

秋山 康紀(大阪府立大院・生命環境科学研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2012-12-05