一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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果実由来アントシアンの精製と利用

質問者:   その他   田中
登録番号2804   登録日:2012-12-21
こんにちは、私は高等専門学校にて植物由来色素の機能について研究を行なっている学生です。
サンプルとしている色素はアントシアニンで、TLCにて分離を行い、アントシアニンの分画のみを分取し、とある酵素反応における酵素活性阻害をみることを目的としております。

現在、植物の果実より水抽出にてアントシアンを含む抽出溶液を得て、その後HP-20という合成吸着剤にてクロマトグラフィーを行いアントシアニン含有溶液を精製しました。
その後、TLCにてアントシアニン含有溶液に含まれる特定のタイプのアントシアニンのみを分取し、それを溶媒で溶出させ、溶出させ作製したアントシアニン溶液を用いてある酵素反応における酵素活性阻害を見ようと考えているのですが、TLCにかけた後どのような種類の溶媒でTLCプレートよりアントシアニン色素を溶出させようか決めかねている状態です。
植物由来色素に関する論文や、ウェブサイトを見てみると酸性有機溶媒を利用して溶出しているという記述が多々見られました。
私としては分取したアントシアニンを酵素反応系に添加したいと考えており、有機溶媒を用いた溶出はできるだけ避けたいと考えているのですが、アントシアニン色素溶出に水を溶媒としても問題はないのでしょうか?
植物色素の酵素反応における効果について研究を行った方がいらっしゃいましたら酵素反応系に供することを前提とした分取TLCにおける色素溶出処理についてお答えいただけましたら幸いです。

以下、実験条件
TLCプレート:セルロース系プレート
展開溶媒:BAW(4:1:2 or 4:1:5)
抽出用溶媒:未定
<2つ目の質問>

こんにちは、私はアントシアニンのとある酵素反応における効果をみる実験を行おうとしています。
酵素反応におけるアントシアニンの機能をみる前に、植物より得たアントシアニンをTLCを利用して分離し、分離したアントシアニンを酵素反応系の添加したいと考えているのですが、TLCにおけるアントシアニンの扱いについて不明な点が出てきましたのでここで質問させて頂きたく存じます。

TLCプレートはセルロース系のものを、展開溶媒はBAW(4:1:2 or 4:1:5)を利用しています。
色素の分離自体は良好なのですが、プレートより溶出させる段階で、プレートを乾燥させ溶媒(水、エタノール)による溶出を試みたところほとんど溶液への着色が認められず、HCl-methanolと混合しても色の増加は見れませんでした。
このような実験結果を受けて、TLC展開後のプレートの扱いに問題があると考えたのですが、アントシアニンをTLCで分離したあとは乾燥はさせずに添加溶媒で湿った状態で手早く分画を削りとり、溶出させた方が良いのでしょうか?

以上ご回答を頂けましたら幸いです。


<回答>

田中 さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
ご質問はアントシアン色素の研究を深く追究しておられる吉田久美先生にお願いしました。二つのご質問をいただきましたが、内容は関連しておりますので一つの回答としてお願いしました。
色素取扱い、実験法などを詳しく記載されている書籍を挙げられていますので、ご自分でこれらを参照して調べることも研究の一環となります。目的に合った方法を調査と実験で見出してください。


【吉田先生の回答】
アントシアニンが通常、強酸性でないと不安定なため抽出、クロマトグラフィーなどによる精製の課程はすべて強酸性(1〜3%塩酸、硫酸、ギ酸、トリフルオロ酢酸など)で行うのが通常です。
精製の条件(種々のカラムクロマトグラフィーやTLC,ペーパークロマトグラフィーなど)につきましては、可能なら下記の書籍に詳しい条件が記載されていますので参照いただけるとよろしいかと思います。ただし、TLCに関しては、シリカゲルのプレートでは、色素が変性してしまうことが多く、薄層といっても、アントシアニンの精製では、セルロースパウダーのプレートを用います。原理はペーパークロマトグラフィーと同じということです。溶出にも酸性の溶媒を用います。中性溶媒では出てきませんし、退色、分解します。
酵素反応に用いたいとのことですが、実際にご質問の方が希望される酵素反応の例は知りませんが、配糖化酵素やアシル化酵素などの基質としてアントシアニンを用いることは多々行われています。その際も、アントシアニンの精製は強酸性下で行います。そして、通常の酵素反応は緩衝液中でpHを制御して行いますから、精製の最終段階で、酸の残存をなるべく減らすことと緩衝液の塩濃度を調整することで、十分に中性付近での反応は可能です。また、これらの酵素反応の場合、生成物もアントシアニンですから反応の停止に酸を加え、(酵素の失活とアントシアニンの安定化の両方を目的に)その後、HPLCなどで反応生成物の確認分析を行います。

林孝三編 「植物色素 実験・研究への手引 (増訂第2版)」 養賢堂
ISBN:9784842588124

植物色素研究会編 「植物色素研究法」 大阪公立大学共同出版会
ISBN-10: 4901409093

吉田 久美(名古屋大学大学院情報科学研究科複雑系科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-01-18