質問者:
一般
しほ
登録番号2810
登録日:2013-01-09
お忙しいなか、目を通していただいてありがとうございます。みんなのひろば
人参にお灸をしてみたらすごく成長したのですが
余った人参のを水耕栽培で育てたりしてるのですが、最近番組で50℃洗いというのを拝見しました。そのときにヒートショック現象というものを知り、この人参を温めたら育つのではないかと市販のセンネン灸を毎日やってみました。
すると、明らかに以前よりも成長しました。
理由が気になって調べていると、ヒートショック現象にはミトコンドリアが活性化され、疾病に対する免疫力が強くなるということが書いてありました。また、ヒートショックプロテイン(シャペロン?)というものが壊れたタンパク質を元に戻すなどの記述がありました。ただ、この記述は人に対するもので、植物にも共通するものなのかが気になりました。
そこでご質問なのですが
①上記で書いたようなヒートショック現象は、植物でも起きるのでしょうか。
②ヒートショックプロテインが植物の成長に関係あるのでしょうか。
至極個人的な質問で申し訳ありません。
ご迷惑でなければ、回答よろしくお願いします。
しほ様
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。「人参にお灸」とは奇想天外とまではいかないにしても、突飛な発想ですね。面白いです。ご質問に対する答は両方とも「yes」ですが、少し説明を加えましょう。 ヒートショックという現象は全ての生物で見られる現象です。生物がその正常な生育温度条件よりも高い温度に置かれると(高温ストレス)、つまりヒートショックを与えると、細胞の構造や機能が傷害を受け、その結果組織や器官の傷害をもたらし、死に至ることもあります。どのくらい高い温度で傷害が起きるかというと、勿論、生物の種類,器官などによって違いはありますが、ふつう正常温度域より少なくとも5℃以上高い温度です。ヒートショックが与えられると、細胞内では正常なタンパク質(酵素等)の合成が一時的に止まりますが、代わりに、ヒートショックタンパク質(Heatshock Proteins : HSPs, 数種類あります)が合成されます。それに伴って、正常な細胞活動が回復されます。勿論あまりにも高温のヒートショックやショックの持続時間によっては、回復が出来ないこともあります。したがって、HSPsが何らかの回復効果を持っていると考えられます。 HSPsの作用について理解されていることの一つは,質問の中にも書かれていますように、「(分子)シャペロン(molecular chaperons)」と呼ばれる働きです。シャペロンとは「付き添い」の意味です。細胞がヒートショックを受けると、生命活動に必要な酵素等のタンパク質が構造的に不安定になり、不活性化や変性が生じ、その結果分解されたりしてしまいます。HSPsは不安定になったタンパク質が壊れてしまわないよう、それに付き添って元に戻してやる役割をはたします。いわば、病気のタンパク質分子の看護分子と言ったところでしょうか。植物ではヒートショックだけでなく、乾燥、低温、冠水、酸素欠乏、重金属イオンなど各種のストレスによってHSPsが合成されることがしられています。これらのHSPsは植物を夫々の傷害から守ったり,あるいは傷害を修復したりすることに役立っていると考えられています。
ところで、しほさんの実験ですが、実験の結果を論じる前に、いくつか確認しておかなければならないことがあります。第一に、実験材料です。使用したニンジンはお灸をすえた(悪いことはしてないですね?)ものとそうでないもの(対照)は大きさも年齢も、その他の生理的条件も同等と考えられるものですか?芽の成長はこれらの要件に大きく作用されますので、比較する場合はお灸をしたこと以外は全く同じ条件であることが必要です。また、観察をそれぞれ一本ずつだけだとすると、偶然の要素を排除することができませんので、処理(お灸)と対照とそれぞれ複数のサンプルを使う必要があります。第二に、お灸はニンジンの根のどこの部位に貼付けたのですか、頭頂部(芽のでる直ぐ下)か根端に近いところか? また、厳密に調べるなら、お灸のシールと同じもので、お灸薬剤のついていないものをつくり、同じように貼付けて、二番目の対照とすることがよいでしょう。第三に、お灸シートを貼ると、人参の温度はどのくらいになるのでしょうか? シートを貼った場所からの温度の勾配は? 一枚のシートで高温が持続出来る時間は? 第四に、人参をどのような状態に置いて観察したのですか?
以上のような問題点はありますが、一応質問に書かれているような結果が得られたとして、考えてみます。まず、お灸をすえた場所の組織の細胞はおそらくヒートショックを受けたと思います。しかし、植物は部分が傷害を受けてもその影響が直ちに全体に行くわたることはまずありません。ニンジンの根にお灸をすえると高温の影響がニンジンのどこまで広がるかは、実際に温度測定をしてみないと分かりませんが、もし、根の中央辺りにお灸をすえたとすれば、先端の芽がある部分はヒートショックの影響を受けていないかもしれません。しかし、毎日お灸をすえていれば、ニンジン全体が暖まってくることがあるかもしれません。そうすると、芽の成長が促されるということもありうるでしょう。ヒートショックの影響自体で成長等が促進されるということは一寸考えられませんので、観察なさったような結果は、別の原因、例えば,芽の周囲の温度が丁度いい具合に保たれたとか,あるいは、たまたまお灸をすえたニンジンが元気のいい個体であったのか(これは第一の疑問に関連しています。)ということになります。
始めに書いたように、ご質問への直接的な答は、「植物にもヒートショック現象はあります.」また、「ヒートショックプロテインは植物の生長にも関係があります。」しかし、ヒートショックによって傷害を受け、生長がマイナスの影響を受けることをHSPSをつくって防いだりするという意味で関係があるのです。HSPsが植物の生長を促進するということではありません。
【追加質問】
①実験対象についてですが、人参は北海道産のLサイズ(品種まではわかりません。申し訳ございません)をまとめ買いしたものなので、対象人参は同一のものだと考えられます。また、お灸を据えたもの(もちろん悪いことはしておりません)と何もしなかったものは、各5本づづです。
もちろん十分な数だとは思えませんが、明らかな差がでたのでなんだかの理由があるのではと考えました。
②お灸をした場所ですが、芽の近くです。葉を切ったあとの緑色になっている所ではありませんが、そこから近いと所(緑色のところから離れていないオレンジ色の所)にしました。
ご指導頂いた実験法は是非参考にさせていただきます。
③人参の温度ですが、お灸をしたことで何度になったのかは、機材がないので分かりかねますが、調べたところ最高で45〜50℃近くまで上がるようです。
また、小さいお灸ですので、1分ほどで温度も(40℃以下に)下がるものです。
④実験状況ですが、上部から2cmのところで切断し、紙コップを切ったものに入れ、1cmのところまで水に浸かった状態で水耕栽培しました。
日照等もできるかぎり同じようになるようにしました。
重ねて質問になってしまうのですが、植物に熱ショックを与えるとミトコンドリアの増加が起こり、ATP産生が増加するとの記載があったのですが、このようなことも成長に関係はないのでしょうか。
また、疾病に対して強くなるとの記載もあったのですが、これは腐りにくくなることにつながるのではと考えたのですが…。
【追加質問への回答】
しほ様
実験の条件や方法をくわしくお知らせ下さってありがとうございます。
植物にヒートショックを与えると、ミトコンドリアの増加が起きて、ATP生産が高まるという報告については知りませんが、弱いヒートショックを与えると酵母菌のミトコンドリアではHSPsが誘導されて、そのあと更に温度が上がっても、ミトコンドリアの活性は影響を受けないということはあります。また。疾病に対して強くなるというのもわかりません。ただ、植物では馴化という現象があって、高い温度に段々馴らして行きことができます。低温の場合もおなじです。しがって、高温に馴化させた植物は高温に曝されても強いということはあり得ます。.(低温の馴化については登録番号1202が参考になると思います。)
今回実験の詳細を読ませていただいて、以下のようにも想像してみました。 切除したニンジンでは徐々に老化がすすんで、細胞の酵素活性も低下してくるとしましょう。しかし,頂部の芽は生きていますから、弱った身体ながらも芽を出します。しかし、最終的には栄養補給もないし、ニンジンの組織の老化もすすんで、死に至り、腐敗が起きることになります。一方、頂部の芽の近くに短い時間のヒートショックを毎日与え続けていると、そこの細胞ではHSPsが作られると考えられます。HSPsは不安定になったり、壊れそうになったりする酵素などのタンパク質が駄目にならないようにするシャペロンの働きがありますから、老化で起きる細胞活性の低下も防いでいるかもしれません。だから対照のニンジンよりはいわば生き生きした状態が保たれている,つまり、老化の進むのが抑えられているので、芽の成長もよく、腐敗の始まるのも遅いということです。ただしこれはあくまでも私の推測です。
水耕する時水だけでなく、液肥を与えてやれば(バクテリアやカビの繁殖には注意が必要ですが)、ヒートショックを与えないニンジンでも芽の成長にあまり代わりはないのではないでしょうか。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。「人参にお灸」とは奇想天外とまではいかないにしても、突飛な発想ですね。面白いです。ご質問に対する答は両方とも「yes」ですが、少し説明を加えましょう。 ヒートショックという現象は全ての生物で見られる現象です。生物がその正常な生育温度条件よりも高い温度に置かれると(高温ストレス)、つまりヒートショックを与えると、細胞の構造や機能が傷害を受け、その結果組織や器官の傷害をもたらし、死に至ることもあります。どのくらい高い温度で傷害が起きるかというと、勿論、生物の種類,器官などによって違いはありますが、ふつう正常温度域より少なくとも5℃以上高い温度です。ヒートショックが与えられると、細胞内では正常なタンパク質(酵素等)の合成が一時的に止まりますが、代わりに、ヒートショックタンパク質(Heatshock Proteins : HSPs, 数種類あります)が合成されます。それに伴って、正常な細胞活動が回復されます。勿論あまりにも高温のヒートショックやショックの持続時間によっては、回復が出来ないこともあります。したがって、HSPsが何らかの回復効果を持っていると考えられます。 HSPsの作用について理解されていることの一つは,質問の中にも書かれていますように、「(分子)シャペロン(molecular chaperons)」と呼ばれる働きです。シャペロンとは「付き添い」の意味です。細胞がヒートショックを受けると、生命活動に必要な酵素等のタンパク質が構造的に不安定になり、不活性化や変性が生じ、その結果分解されたりしてしまいます。HSPsは不安定になったタンパク質が壊れてしまわないよう、それに付き添って元に戻してやる役割をはたします。いわば、病気のタンパク質分子の看護分子と言ったところでしょうか。植物ではヒートショックだけでなく、乾燥、低温、冠水、酸素欠乏、重金属イオンなど各種のストレスによってHSPsが合成されることがしられています。これらのHSPsは植物を夫々の傷害から守ったり,あるいは傷害を修復したりすることに役立っていると考えられています。
ところで、しほさんの実験ですが、実験の結果を論じる前に、いくつか確認しておかなければならないことがあります。第一に、実験材料です。使用したニンジンはお灸をすえた(悪いことはしてないですね?)ものとそうでないもの(対照)は大きさも年齢も、その他の生理的条件も同等と考えられるものですか?芽の成長はこれらの要件に大きく作用されますので、比較する場合はお灸をしたこと以外は全く同じ条件であることが必要です。また、観察をそれぞれ一本ずつだけだとすると、偶然の要素を排除することができませんので、処理(お灸)と対照とそれぞれ複数のサンプルを使う必要があります。第二に、お灸はニンジンの根のどこの部位に貼付けたのですか、頭頂部(芽のでる直ぐ下)か根端に近いところか? また、厳密に調べるなら、お灸のシールと同じもので、お灸薬剤のついていないものをつくり、同じように貼付けて、二番目の対照とすることがよいでしょう。第三に、お灸シートを貼ると、人参の温度はどのくらいになるのでしょうか? シートを貼った場所からの温度の勾配は? 一枚のシートで高温が持続出来る時間は? 第四に、人参をどのような状態に置いて観察したのですか?
以上のような問題点はありますが、一応質問に書かれているような結果が得られたとして、考えてみます。まず、お灸をすえた場所の組織の細胞はおそらくヒートショックを受けたと思います。しかし、植物は部分が傷害を受けてもその影響が直ちに全体に行くわたることはまずありません。ニンジンの根にお灸をすえると高温の影響がニンジンのどこまで広がるかは、実際に温度測定をしてみないと分かりませんが、もし、根の中央辺りにお灸をすえたとすれば、先端の芽がある部分はヒートショックの影響を受けていないかもしれません。しかし、毎日お灸をすえていれば、ニンジン全体が暖まってくることがあるかもしれません。そうすると、芽の成長が促されるということもありうるでしょう。ヒートショックの影響自体で成長等が促進されるということは一寸考えられませんので、観察なさったような結果は、別の原因、例えば,芽の周囲の温度が丁度いい具合に保たれたとか,あるいは、たまたまお灸をすえたニンジンが元気のいい個体であったのか(これは第一の疑問に関連しています。)ということになります。
始めに書いたように、ご質問への直接的な答は、「植物にもヒートショック現象はあります.」また、「ヒートショックプロテインは植物の生長にも関係があります。」しかし、ヒートショックによって傷害を受け、生長がマイナスの影響を受けることをHSPSをつくって防いだりするという意味で関係があるのです。HSPsが植物の生長を促進するということではありません。
【追加質問】
①実験対象についてですが、人参は北海道産のLサイズ(品種まではわかりません。申し訳ございません)をまとめ買いしたものなので、対象人参は同一のものだと考えられます。また、お灸を据えたもの(もちろん悪いことはしておりません)と何もしなかったものは、各5本づづです。
もちろん十分な数だとは思えませんが、明らかな差がでたのでなんだかの理由があるのではと考えました。
②お灸をした場所ですが、芽の近くです。葉を切ったあとの緑色になっている所ではありませんが、そこから近いと所(緑色のところから離れていないオレンジ色の所)にしました。
ご指導頂いた実験法は是非参考にさせていただきます。
③人参の温度ですが、お灸をしたことで何度になったのかは、機材がないので分かりかねますが、調べたところ最高で45〜50℃近くまで上がるようです。
また、小さいお灸ですので、1分ほどで温度も(40℃以下に)下がるものです。
④実験状況ですが、上部から2cmのところで切断し、紙コップを切ったものに入れ、1cmのところまで水に浸かった状態で水耕栽培しました。
日照等もできるかぎり同じようになるようにしました。
重ねて質問になってしまうのですが、植物に熱ショックを与えるとミトコンドリアの増加が起こり、ATP産生が増加するとの記載があったのですが、このようなことも成長に関係はないのでしょうか。
また、疾病に対して強くなるとの記載もあったのですが、これは腐りにくくなることにつながるのではと考えたのですが…。
【追加質問への回答】
しほ様
実験の条件や方法をくわしくお知らせ下さってありがとうございます。
植物にヒートショックを与えると、ミトコンドリアの増加が起きて、ATP生産が高まるという報告については知りませんが、弱いヒートショックを与えると酵母菌のミトコンドリアではHSPsが誘導されて、そのあと更に温度が上がっても、ミトコンドリアの活性は影響を受けないということはあります。また。疾病に対して強くなるというのもわかりません。ただ、植物では馴化という現象があって、高い温度に段々馴らして行きことができます。低温の場合もおなじです。しがって、高温に馴化させた植物は高温に曝されても強いということはあり得ます。.(低温の馴化については登録番号1202が参考になると思います。)
今回実験の詳細を読ませていただいて、以下のようにも想像してみました。 切除したニンジンでは徐々に老化がすすんで、細胞の酵素活性も低下してくるとしましょう。しかし,頂部の芽は生きていますから、弱った身体ながらも芽を出します。しかし、最終的には栄養補給もないし、ニンジンの組織の老化もすすんで、死に至り、腐敗が起きることになります。一方、頂部の芽の近くに短い時間のヒートショックを毎日与え続けていると、そこの細胞ではHSPsが作られると考えられます。HSPsは不安定になったり、壊れそうになったりする酵素などのタンパク質が駄目にならないようにするシャペロンの働きがありますから、老化で起きる細胞活性の低下も防いでいるかもしれません。だから対照のニンジンよりはいわば生き生きした状態が保たれている,つまり、老化の進むのが抑えられているので、芽の成長もよく、腐敗の始まるのも遅いということです。ただしこれはあくまでも私の推測です。
水耕する時水だけでなく、液肥を与えてやれば(バクテリアやカビの繁殖には注意が必要ですが)、ヒートショックを与えないニンジンでも芽の成長にあまり代わりはないのではないでしょうか。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
JSPPサイエンスアドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-01-17
勝見 允行
回答日:2013-01-17