一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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固定した細胞が原形質分離をしないことについて

質問者:   教員   よっしー
登録番号2811   登録日:2013-01-11
過去の質問を「原形質分離」や「浸透圧」、「固定」と検索しても同様の質問がなかったため、初めて質問させていただきます。
原形質分離の実験を、オオカナダモの葉を用いて行いました。
しかし、一度固定したオオカナダモの葉では、原形質分離が起きませんでした。
このことについてご教授お願いいたします。

高張液は5%塩化ナトリウム水溶液です。
固定処理:固定液は、99%エタノール、45%酢酸、10%ホルムアルデヒドの3種類を用いました。いずれの溶液にも数十秒ほど葉を漬け、水洗してから、高張液に漬けました。

5%塩化ナトリウム水溶液を選んだ理由は、別の実験で使っている溶液で、その浸透圧による細胞の変化を、細胞が大きく、観察の容易なオオカナダモをモデル細胞として利用したためです。

実験をしてみると、5%塩化ナトリウム水溶液では、オオカナダモのどの細胞も原形質分離をしておりました。スクロース水溶液を高張液として用いた場合に比べて強く原形質分離を起こしている印象でした。
しかし、固定処理したのち、5%塩化ナトリウム水溶液に浸すと、どの細胞も原形質分離が起きませんでした。

ここで、2つの点を考察しました。

1)固定処理によって、細胞膜に大きな穴が開き、細胞膜の半透性が失われたため。
2)固定処理によって、膜タンパク質が変性し、アクアポリンのような水分子チャネルが壊れたため、水分子が透過しにくくなったため。(前提として、細胞膜を極性分子の水分子が通りにくいという考えがあります)

これらを証明するために、膜タンパク質を含まない、人工のリン脂質二重膜(内部にオオカナダモの葉と同程度の着色した液を入れておく)に固定処理をし、高張液に浸せばよいと考えておりますが、その具体的な方法がわかっておりません。その実験方法についても、アドバイスいただければと思います。よろしくお願いいたします。
よっしー さん
ご質問をありがとうございました。オオカナダモでは原形質分離の観察が容易ですね。
ところで、「原形質分離」とは、高張液に浸された時に細胞膜(原形質膜)に囲まれた内容物が収縮して細胞壁から分離する現象のことで、この現象がおこる原因は細胞膜の半透性にあるのでしたね。一方、固定処理によって起こることは、中心的には細胞を構成するタンパク質の無差別な変性であると言えます。細胞膜を構成するタンパク質が変性すると、膜構造が無秩序になり、膜は半透性を失ってしまいます。このため、固定した細胞では原形質分離が見られなくなって当然だと思います。時として、原形質分離を起こすかどうかで細胞が生きているかどうかを判定することがあるくらいです。


人工のリン脂質二重膜を高張液や低張液で処理すると、膜構造体(リポソーム)は伸縮したり膨潤したりしますが、この膜にはタンパク質が含まれておりませんので、固定薬物による処理の影響は限定的だと思います。でも、確かめてみる価値のある実験だと思います。先ずは、リポソームをつくって、分離するところから始まりますね。
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2013-01-17
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