一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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種無しブドウのジベレリン処理について

質問者:   教員   こんどう
登録番号2815   登録日:2013-01-22
高校生物の範囲で種無しブドウの製法について,1回目と2回目のジベレリン処理の効果を問うている問題でわからないところがあったのでご教示いただければ幸いです。

問題文は以下の通りです。
(ジベレリン処理について〜)
「通常,この処理は開花前と開花後の2度行う。開花前は(①花粉形成阻害 ②花粉受粉阻害)が目的で,開花後の目的は(①果実の肥大促進 ②果実の肥大阻害)である。」

2回目の果実の肥大促進は解答に迷わないのですが,1回目(開花前)の処理はどちらが正しいのでしょうか?教科書や図説などには単為結実促進と書かれてあるのですが,どういった仕組みで単為結実が促進されるのかわかりません。問題の花粉形成/花粉受粉阻害の答えとともに,1回目のジベレリン処理のしくみをお教えいただければ幸いです。
よろしくお願いします。
こんどう さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
日本において種無しブドウの開発はデラウエア品種で確立されましたが、初めから種無し果実を狙ったものではありません。 ジベレリンの茎成長促進作用を利用してデラウエアの詰まった果房の果軸伸長を促進して果実どうしの接触を防ぎ品質を高めようとの意図から試験が行われ、その過程でジベレリン処理が無種子果形成を促進することが発見されたものです。今では二段階処理が標準となっており、その方法が高校の教科書に取り上げられているのでしょう。
デラウエア品種での研究によれば、一回目のジベレリン処理で受精(種子形成)を阻害し、二回目のジベレリン処理で子房の肥大を促進することが分かっています。ご質問は一回目のジベレリン処理で、どうして受精(種子形成)が阻害されるかの仕組みに関するものです。デラウエアでは、満開日の10日〜15日前(花粉や胚珠の形成期)に一回目のジベレリン処理が適当(必要)とされています。ジベレリン処理をした花の花粉を、ジベレリン処理をしない花の柱頭につけても受精は正常でなく、無種子果実が出来ます。このことから花粉形成時にジベレリン処理すると花粉の受精能力が失われることが明らかです。しかし、ジベレリン処理をした花の花粉の形態には異常はないとの結果も得られています。また、ジベレリン処理をしない花の花粉をジベレリン処理した花の柱頭につけても受精が起こらない(種子が形成されない)ことも明らかにされました。さらに、ジベレリン処理をした花の胚珠には形態異常も見いだされ、ほぼ完全に稔性を失うと推定されています。
これらの実験結果から、一回目のジベレリン処理は、花粉および胚珠の形成過程に影響を及ぼして両方の稔性を失わせるために受精が、その結果種子形成が起こらない、と結論づけられています。花粉側の異常の仕組みはまだわかっていないようです。
したがって、ご質問にある「開花前は(㈰花粉形成阻害 ㈪花粉受粉阻害)」の二者択一問題の回答は、私には両方とも正解のように思え、どちらが正解かわかりません。おそらく、花粉形態に異常が起こらないので「花粉形成阻害」は正解でないとするのが出題者の意図だと推定されますが、正常な胚珠にも受精しないので、明らかに花粉の機能は阻害されているはずです。一方の「花粉受粉阻害」も意味がはっきりしない表現です。「胚珠(あるいは雌しべ)の受精阻害」を意図したのでしょうが、そうとすれば両方とも正解です。「受粉」とは「花粉が柱頭に達すること」ですから、素直に解釈すれば「花粉あるいは雌しべか柱頭に何らかの異常が起きて花粉が柱頭に到達できない」ことになりますね。どんなことがおきれば、こんなことになるのか想像できません。とすれば「花粉形成阻害」が正解となります。きちんと吟味されない問題を出されると生徒も先生も困りますね。
ちなみに、花粉も胚珠もともにその形成の進行経過やジベレリンに対する感受性はブドウの品種によって著しく異なりますのでデラウエアの方法が他の品種に適用でいる方法ではありません。大粒種の巨峰やピオーネなどでも無種子化が成功していますがジベレリンの処理方法は異なっています。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-02-16
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