一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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茶樹の炭水化物の生理について

質問者:   会社員   肥料屋
登録番号2818   登録日:2013-02-01
茶樹は1月の厳寒期に葉に糖分を蓄え浸透圧を上げることで耐寒性を付け、その後糖分は1月〜3月(萌芽期)にかけて根に転流し、デンプンとして貯蔵されるようです。4月(新芽展開期)には逆に根から新芽へ転流するため急激に減少しますが、なぜ1回葉で作られた糖分を根でデンプンとして貯蔵するのでしょうか?
わざわざ根に転流する理由とデンプンとして貯蔵する理由を教えてください。
よろしくお願いいたします。
肥料屋さま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を長年、澱粉のご研究をなさって来られた中村保典先生にお願い致しました所、以下の様な回答をお寄せ下さいました。追加での質問を歓迎しますと云う事ですので、もしありましたら遠慮なくメールして下さい。


中村先生のご回答

茶樹が厳冬期にデンプンを分解して糖分に変え、上昇した糖分のおかげで浸透圧効果などで耐寒性を付与されることは、植物一般のストレス回避対策のようで備わっています。新芽展開期に再び、あるいは光合成でできた糖分を根に転流し、根でデンプンとして貯蔵する理由ですが、以下のことが考えられます。
まず、根でデンプンを貯蔵することの有利な点ですが、デンプン粒は比重約1.6にも及ぶことからもわかるように、細胞(プラスチド)内の限られた空間に多量のエネルギー物質(糖)を貯める上で有利です。また、化学的には分子中に還元末端をほとんど持たない(正確には、10の8-9乗のオーダーに及ぶ巨大分子中、唯一個だけのグルコースが還元末端を持つ。後のグルコースはすべて還元末端を封じられている)ため、極めて安定な物質である。また巨大分子でしかも結晶性の粒構造を持つ不溶性物質であるがゆえに、浸透圧への影響もほとんどない。細胞へストレスを与えない物質といえます。
以上の理由で、根は非光合成器官ですので、自身の生活のためのエネルギーを糖で蓄えるよりも、デンプンの方が有利と言えるのではないでしょうか。
また、長期保存という観点からも、デンプンは結晶性を帯びた粒構造をしている(生デンプンともいいますが)ため、分子状で分散しているよりも、加水分解酵素など(各種アミラーゼなど)のアタックを受けにくいことが分かっています。従って、分解のコントロールを合目的に行いやすいとも言えます。
追加でご質問などありましたら、お寄せ下さい。

中村 保典(秋田県立大学生物資源科学部)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2013-02-16
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