質問者:
その他
二上山の風
登録番号2867
登録日:2013-05-26
針葉樹のうちマツボックリのようないわゆる球果をつけるものと、イチイのような仮種皮をつけるものとは、とても大きな違いがあるように思われます。科、属、種、程度の違いではないような大きな違いがあるように思われます。「思われます」程度の感覚的な判断しかできませんが、この違いは何から来るのでしょうか。発生の歴史の違いがあるのでしょうか。
みんなのひろば
針葉樹の球果と仮種皮の違い
二上山の風様
ご質問承りました。まず、針葉樹の類縁(系統)関係を説明させてください。従来、イチイ属とカヤ属は仮種皮を持つことから、他の針葉樹類とは大きくことなると考えられてきました。しかし、Leslie博士らの2012年の研究や他の研究で、針葉樹の仲間について遺伝子を比較すると、イチイ属はカヤ属だけでなくイヌガヤ属とも近縁であることがわかりました。一方、これら3つの属は他の針葉樹の中では、ヒノキ属に最も近縁だという従来の形態に基づく推定が正しかったこともわかりました。イチイ属とカヤ属は仮種皮を持ち、イヌガヤ属は肉質の外種皮を持つと図鑑(例えば日本の野生植物[保育社])などには書かれているかもしれません。しかし、これら3属が近縁であることがわかったので、イチイ属とカヤ属の仮種皮はイヌガヤ属の外種皮と同じ起源を持つ器官の可能性も出てきました。今後の研究が楽しみです。それと、外種皮というのは、被子植物のみが持つ器官ですので、用語としては適切ではありません。国際的には肉質種皮(sarcotesta)と呼ばれることが多いです。
これら3属はヒノキ科に最も近く、次にコウヤマキ科、さらにマキ科、そしてマツ科に近縁です。このような類縁関係に基づき、針葉樹類の祖先は松ぼっくりを持っており、イチイ属、カヤ属、イヌガヤ属で松ぼっくりを作らなくなったと推定されています。これら3属が松ぼっくりを作らなくなったのは、種子の散布に風ではなく動物を用いるようになったからだと考えられます。
属、科、目などの高次分類群は、共通の祖先に由来する全ての現生の種を含むように決めます。どこまでを科や目とするかは、使いやすさに従って決めます。イチイ科(イチイ属、カヤ属、イヌガヤ属などを含む)、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科は、それぞれ共通の祖先由来の全ての種と属を含むように決まっています。さらに、これら5つの科は共通の祖先(イチイ科、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科のそれぞれの共通祖先よりもさらに古い時代の祖先)から進化してきたことがわかっていますので、針葉樹目としてまとめられます。イチイ科は針葉樹目の他の科に較べて先述のように大きく形態が変わっているのですが、イチイ科をイチイ目とすると、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科もそれぞれ目としなければならなくなってしまいます。そうすると、針葉樹類は1科1目の群ばかりになってしまい、名前が増えてややこしくなります。そこで、イチイ科は形態が異なっているものの、目とはせずに科としています。
(引用文献)Leslie, A. B. [et al. 2012], Beaulieu, J. M., Rai, H. S., Crane, P. R., Donoghue, M. J., & Mathews, S. 2012. Hemisphere-scale differences in conifer evolutionary dynamics. Proc. National Acad. Sci. U.S.A. 109: 16217-16221.
ご質問承りました。まず、針葉樹の類縁(系統)関係を説明させてください。従来、イチイ属とカヤ属は仮種皮を持つことから、他の針葉樹類とは大きくことなると考えられてきました。しかし、Leslie博士らの2012年の研究や他の研究で、針葉樹の仲間について遺伝子を比較すると、イチイ属はカヤ属だけでなくイヌガヤ属とも近縁であることがわかりました。一方、これら3つの属は他の針葉樹の中では、ヒノキ属に最も近縁だという従来の形態に基づく推定が正しかったこともわかりました。イチイ属とカヤ属は仮種皮を持ち、イヌガヤ属は肉質の外種皮を持つと図鑑(例えば日本の野生植物[保育社])などには書かれているかもしれません。しかし、これら3属が近縁であることがわかったので、イチイ属とカヤ属の仮種皮はイヌガヤ属の外種皮と同じ起源を持つ器官の可能性も出てきました。今後の研究が楽しみです。それと、外種皮というのは、被子植物のみが持つ器官ですので、用語としては適切ではありません。国際的には肉質種皮(sarcotesta)と呼ばれることが多いです。
これら3属はヒノキ科に最も近く、次にコウヤマキ科、さらにマキ科、そしてマツ科に近縁です。このような類縁関係に基づき、針葉樹類の祖先は松ぼっくりを持っており、イチイ属、カヤ属、イヌガヤ属で松ぼっくりを作らなくなったと推定されています。これら3属が松ぼっくりを作らなくなったのは、種子の散布に風ではなく動物を用いるようになったからだと考えられます。
属、科、目などの高次分類群は、共通の祖先に由来する全ての現生の種を含むように決めます。どこまでを科や目とするかは、使いやすさに従って決めます。イチイ科(イチイ属、カヤ属、イヌガヤ属などを含む)、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科は、それぞれ共通の祖先由来の全ての種と属を含むように決まっています。さらに、これら5つの科は共通の祖先(イチイ科、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科のそれぞれの共通祖先よりもさらに古い時代の祖先)から進化してきたことがわかっていますので、針葉樹目としてまとめられます。イチイ科は針葉樹目の他の科に較べて先述のように大きく形態が変わっているのですが、イチイ科をイチイ目とすると、ヒノキ科、コウヤマキ科、マキ科、マツ科もそれぞれ目としなければならなくなってしまいます。そうすると、針葉樹類は1科1目の群ばかりになってしまい、名前が増えてややこしくなります。そこで、イチイ科は形態が異なっているものの、目とはせずに科としています。
(引用文献)Leslie, A. B. [et al. 2012], Beaulieu, J. M., Rai, H. S., Crane, P. R., Donoghue, M. J., & Mathews, S. 2012. Hemisphere-scale differences in conifer evolutionary dynamics. Proc. National Acad. Sci. U.S.A. 109: 16217-16221.
JSPP広報委員長
長谷部 光泰
回答日:2013-06-06
長谷部 光泰
回答日:2013-06-06