一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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剪定後の樹木が春に芽吹きが遅いのはなぜですか?

質問者:   会社員   miwa
登録番号2869   登録日:2013-05-31
春先に感じた疑問について質問させて頂きます。
街路樹で秋口に剪定されたイチョウとそうでないものとでは春の芽吹きのタイミングに差があるように感じます。落葉前に剪定することで葉に蓄えた養分を木自体に戻す前に枝がなくなり、全体として芽吹きに必要なエネルギーが少なくなったためではないかと考えますが、正しいのでしょうか?
また、生理学的にはどのようなメカニズムになっているのでしょうか?
植物ホルモンなどが複合的に関わってくるのでしょうか?
宜しくお願い致します。
miwaさま

みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。草本が相手ですと観察対象を20個体とか30個体とかに増やして、感じたことが一般的に云えるかどうかを確かめる事が出来るのですが、樹木の場合、観察対象の個体数を増やす事が難しいのと、芽吹きなどの時期は年によって異なるのとで、miwaさんが感じた事が一般的に云える事がどうかなかなか難しいのですが、これまでに剪定と芽吹きの時期との関係についての報告があるかどうかも含めて、京都大学生存圏研究所の馬場啓一先生にお尋ねしましたところ以下の様なコメントをお寄せ下さいました。お役に立つものと思います。


馬場啓一先生からのコメント

「剪定された木は春の芽吹き(休眠打破)が遅いように感じられる」とのことですが、初耳です。こういった現象が本当にあるのでしょうか? 
小耳に挟んだこともなかったので、それらしい本を2、3調べてみましたが、休眠打破と剪定(攪乱)の関係に触れた記述は見つかりませんでした。

調べた中に面白い話は見つけました。小池孝良先生編「樹木生理生態学」朝倉書店の188ページに以下のような(『 』内)記述があり、もし本当にイチョウで剪 定された木の芽吹きが遅いのであれば、こういうことかも知れないと想像をふくらませました。ちゃんと確かめないと「こうです」とは言えませんが…

『広葉樹の幹からの萌芽は、定芽由来の場合が多い。針葉樹の萌芽についてはあまり報告が多くないが、コウヨウザンでは腋芽由来の抑制芽が、スギでは 針葉基部の分裂組織が萌芽の原基であると報告されている。』

とのことで、次ページの図10.17では、スギの頂端除去後に針葉基部から萌芽が
できるまでの写真が順に3枚載っており、概ね4週間ほどかかるようです。

イチョウも裸子植物なので針葉樹と系統的に近く、もしもスギと同じように、あらかじめ準備した枝先の冬芽以外は休眠芽を準備しておらず、頂芽除去 後に分裂組織から萌芽形成しているのだとすると、剪定されたら芽ができるのに時間がかかる可能性があります。しかしながら、これは「イチョウの幹 には定芽が準備されていなかったらあるいはそうかもしれない」という仮定の話なので、本当のところがこういうことなのかどうなのかは不明です。

少なくとも、miwa さんが想像しているような、栄養分の不足で芽吹きが遅くなるということはないと思います。休眠打破は一般に温度で調節されており、その時期が蓄えた栄養分の量で変わることはありません。栄養分が不足していると、その時にできた葉や枝が小さくなることはあるでしょう。

馬場 啓一(京都大学 生存圏研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2013-06-06
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