一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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茎や枝による栄養繁殖の違い

質問者:   一般   Beginner
登録番号2874   登録日:2013-06-07
アメリカシャガについて調べていたところ、その繁殖様式に疑問が生じました。
ネット上で調べたところ、栄養繁殖において、茎の基部から枝を出すののに匍匐枝(stolon)と走出枝(runner)があり、匍匐枝は節から根を出し走出枝は子株を作ると有りましたが、共に根を出し株を作るように思え、その違いが良く分かりません。 またこれらが、地中を這えば、横走根茎(horizontal rhizome)や匍匐根茎(creeping rhizome, stoloniform rhizome)であるとありましたが、これもまた、その違いが良く分かりません。 茎の上部より出る枝による栄養繁殖も可能かと思います。
これらの違いや特徴をお教えいただければ幸いです。 また、各々の英語表記もお教えいただければと思います。
宜しくお願いいたします。
Beginner様

 ご質問承りました。仕事が立て込んでしまいましてご返事遅くなってすいませんでした。

 アメリカシャガとは別属ですが、日本のシャガも同じような繁殖様式を持っていますね。金沢大学を退官された清水建美先生が「図説植物用語事典(八坂書房)」という本を書かれていてとてもわかりやすく正確ですのでお薦めします。ただ、分類の部分は古い体系ですので他の文献を参考にしてください。また、ネットですと、日本語のwikipediaは残念ながら間違いが多いですが、英語版のwikipediaはほとんど正しい情報のようです。

 匍匐枝も走出枝も草本植物の茎の葉腋からでた腋芽が伸びたシュート(茎と葉、そしてそれらを作り出す茎頂分裂組織をあわせたものの呼び方です)で、葉と葉の間が伸長する場合が多いです。長く伸びた茎にいくつかの葉がついています。匍匐枝は葉の付いている位置(節と呼びます)から不定根が生じます。一方、走出枝はシュートの先端部分からだけ不定根を出し、途中の節からは不定根を出しません。匍匐枝の例はムラサキサギゴケなど、走出枝はユキノシタやオランダイチゴなどです。アメリカシャガがどちらのタイプが是非観察してみてください。どうして匍匐枝のようにどの節からも根が出るものと、走出枝のように先端部分だけからしか根が出ないものがあるのかはまだよくわかっていません。被子植物の根形成はオーキシンなどの植物ホルモンによって制御されていますので、体の中でのホルモンの運び方などが違っているのかもしれませんし、他の理由かもしれません。

 清水先生の本には匍匐枝はstolon、走出枝はrunnerとありますが、手元にある英語の教科書(Harris and Harris. 2001. Plant Identification terminology; Simpson. 2006. Plant Systematicsなど)を見ますとstolonはrunnerと同義とありますので、英語圏では両者ははっきり区別していない場合が多いようです。

 匍匐枝や走出枝は親の茎の下の方から出る場合が多いです。これは、頂芽優勢で茎の上の方からは枝が出にくいからです。でも、親の茎頂が弱っていたり、頂端に花が咲いた場合には、茎の比較的上の方からも匍匐枝や走出枝が出ます。

 茎が地中にある場合は根茎と呼びます。根茎は立ち上がる場合と横に這う場合があって、前者を直立根茎(vertical rhizome)、後者を横走根茎(horizontal rhizome)と呼びます。横走根茎の中で葉と葉の間隔が広いものを匍匐根茎(creeping rhizome、stoloniform rhizome)と呼びます。匍匐枝や走出枝は、たまたま土をかぶる場合もありますが、ほとんどの場合は地上を這うので、根茎とは呼びません。

 茎の伸び方、面白いですよね。生きものは例外があるのが特徴です。ぜひ、いろいろな植物で観察して、例外を探してみて下さい。

JSPP広報委員長
長谷部 光泰
回答日:2013-06-27
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