一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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針葉樹林内の青色のチンダル現象について

質問者:   その他   二上山の風
登録番号2880   登録日:2013-06-17
 森や林をよく歩き回っている者です。
 スギ、ヒノキなどの針葉樹林に射し込む太陽の光の通路が青みがかって見えることがたびたびあります。青く見えるのは針葉樹から出ているテルペン類のコロイド粒子によるチンダル現象だと思っているのですが、正しいのでしょうか。
 クヌギ、コナラなどの落葉樹の林で青い光の通路を見たことがありませんので、針葉樹林内のみの現象だと思われます。
 単に針葉樹林内の水蒸気によるチンダル現象で青く見えるということもあるのでしょうか。一か月も雨が降らなかった時も針葉樹の森で青い光の通路は見受けられますので、水蒸気によるものではないと思っているのですが。
 また、この現象が、仮にテルペン類のコロイド粒子によるものと仮定して、青く見える理由もわかりません。よろしくお願いします。
二上山の風 さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。

ご質問は森林総合研究所の大平先生にお願いしました。参考文献も挙げていただけましたのでさらに詳しいことはご参照ください。

人間活動が自然の不思議な現象にも影響していることは考えさせられますね。



この現象は、テルペン類が大気中の酸化物や紫外線などと反応して生成する粒子状物質が引き起こすものです。一般的に、「ブルーヘイズ」という言葉が使われています。
コロイド粒子のチンダル現象という表現も誤ったものではありません。青い色は
生成した粒子状物質が青い光を反射して見えると言われています①。水蒸気も影響がないわけではありませんが、それ以上にテルペン類と反応する大気中の酸化物や紫外線などの影響の方が粒子状物質の生成に関係していると考えられています。

 遠くの山は青く見えることが多いですが、最近では「青い靄(ブルーヘイズ)」を実感することは少なくなっています。おそらく、今の日本では 排気ガスなど由来の人間活動による粒子が多く存在するため、植物由来のテルペン類の反応生成物が、新粒子を生成する前に既存の人間活動由来の粒子にくっついてしまい②、青色を反射する植物由来の微小な新粒子ができにくいのではないかと考えられています。

 広葉樹もテルペン類を放出していますが、主要なテルペン類がイソプレンという物質であり、針葉樹の主要なテルペン類であるα-ピネンとは種類が異なります③。イソプレンとα-ピネンは化学的特性が異なりますので、生成する粒子状物質の特性も異なります。しかし、なぜイソプレン由来の粒子状物質では、大気中でブルーヘイズ現象が見られないのかついては現在のところ解明されていません。なお、シドニー郊外のブルーマウンテンでは、ユーカリがα-ピネンやシネオール(別名;1,8-シネオール、ユーカリプトールなど)の物質を放出することで「ブルーヘイズ」の現象が観察できると言われています④⑤。

参考文献

① Went FW (1960) Blue hazes in the atmosphere. Nature, 187: 641-643

② Renyi Zhang et al (2009) Formation of nanoparticles of blue haze
enhanced by anthropogenic pollution. Proc Natl Acad Sci USA, 106:
17650-17654

③大平辰朗 (2007)森林の香り、木材の香り、八十一出版(東京)、62pp

④B.P.トーキン・神山恵三(1980)植物の不思議な力=フィットンチド、ブルーバッ
クスB-424、講談社

⑤神山恵三(1983)森の不思議、岩波新書



大平 辰朗 (森林総合研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-07-02
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