一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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板に石灰をぬったらグリーンやベージュの色に変色しました

質問者:   一般   リュースター
登録番号2882   登録日:2013-06-20
フレスコ画をやってみようと思い、消石灰を水でといて板にぬっておいたら
最初はきれいな白だったのに中から薄いグリーンやベージュのいろが浮き上がってきました。杉板からどんな成分がでてなぜこのような色がつくのか不思議なので知りたいです。

このようなときに杉板からくる変色を減らしたいのですが
板が大きいものなのでお鍋で煮たりはできません。
化学物質に弱いので植物の性質を利用したいのですが、
中からでてくる樹液のようなものを固まらせたり変色させないようにする
植物はありますか。
よろしくお願い致します。
リュースター様

質問コーナーへようこそ。歓迎致します。 
 フレスコ画を描くために支持体として杉板を使ったところ、板が変色したということですね.そして、変色を防ぐため何か植物由来の材料はないかとお考えのようですね。ご質問の内容は植物自身のこととは少々かけ離れていますので適切な回答はできないのですが、一般に木材の変色が何故おきるかということを簡単に説明いたします。木材は無色ということはなく、はじめから何らかの色を呈しています。これは木材中に含まれるさまざまな成分(化学物質)によるものです。したがって、これらの化学物質が何らかの化学反応で変化すると、違った色を呈する物質に変わります。変色の原因となる物質は樹の種類によっても異なり、その種類は非常に多い様です。例えば使っておられる杉板の場合も、変色の原因物質を調べた研究がありますが、特定できてはいません。それに一種類の物質ではなく複数の物質が関係しています。また、変色を引き起こす要因は光,熱、湿度などの物理的な事柄から、カビ、バクテリアなどの微生物が関係することもあります。リュースターさんの場合は石灰を塗ったら変色したといことですが、アルカリ性の薬剤は変色を起こす大きな要因の一つのようです。特に杉板は石灰等で変色し易いようです。
 フレスコ画の描き方のことは全く知らなかったので調べてみますと、支持体は吸水性のあることが大切なようですね。木板はその点問題ないでしょうが、杉板でなければいけないのでしょうか。杉は日本特産の樹なので、他国のフレスコ画で杉板を使った例はないのではないでしょうか。安価であるというメリットはありますね。杉板が石灰で変色するのを避けるためには、石灰が直接板の中にしみ込まないようにすれば良いのでしょう。モルタルなどの外壁塗装の時に用いる合成樹脂系のリシン吹き付け下地塗料などでコーティングして、その上にフレスコ画を描くということではどうでしょうか。インターネット上で「フレスコの技法 - 壁画LABO」で検索するとそのような例が紹介されています。リュースターさんはそういうことを何か植物で代行させたいと考えておられる様ですが、残念ながら、そういうものは思いつきません。多分ないでしょう。

(補足)
いろいろ関心をもたれて疑問がひろがり、積極的に考えを試してみられることは素晴らしいことです。ご質問に関連のある樹の内部の赤い部分について説明いたしましょう。 大きい樹を切ってみると、樹幹の中心部が赤、褐色、黒褐色などになっています。多くの種類の樹では樹齢を重ねるに従ってこのような部分が形成されてきます。この色に着いた中心部を「心材」と呼んでおり、そのような部分が形成されることを「心材化」といいます。因みに心材の外側周辺の白い(着色していない)部分は「辺材」といいます。スギ等の針葉樹の場合と広葉樹とでは少し違いがありますが、ここではスギ板の話でもありますので、針葉樹を念頭において話します。樹幹は水の通導と樹幹の機械的支持に役立っている木部という組織が中心部にあり、その外側に栄養分を通導に関わる師部があります。両者の間には形成層という細胞分裂を繰り返している組織があります。つまり、細胞分裂によって内側に木部が、外側に篩部がつくられていきます。樹が若い時は、木部は主として放射柔細胞と仮道管とからできており、前者は生きた細胞、後者は死んだ細胞です。ところが、樹齢が進むにつれて心材となる部分の柔細胞はすべて死んでしまい、通導を含む生物的機能は全くなくなります。生物的機能は「辺材」(篩部ではない)に残されて、水の通導はそこでおこなわれます。木部の柔細胞は生きている時に各種のフェノール化合物やテルペン化合物(二次代謝物質)を生産して、細胞内に溜め込みます。心材形成時に壊死した柔細胞から漏出したこれらの二次代謝産物は、重合反応や酸化によって褐色系に着色するのです。
なお、樹木の構造、木部、心材などについては登録番号1549, 登録番号1809, 登録番号2564あるいは関連質問の回答を参考にして下さい。
JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-07-08