一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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葉のデンプン調べについて

質問者:   教員   田代
登録番号2886   登録日:2013-06-26
6年生の授業で葉のデンプンを調べます。
これまでの方法は、時間がかかったり、薬剤を使ったりしますので、もっと手軽な方法はないかと工夫しいました。
偶然ですが、次のような方法で葉のデンプンを検出することができました。
①爪楊枝を20本ほど輪ゴムでしっかり束ねます。
②ジャガイモの葉を裏向けにしてタオルの上にのせます。
③裏から軽くまんべんなく爪楊枝の束でたたきます。もちろんとがった方で。無数の穴を開けるわけですね。穴が空いたところは色が濃くなるのでわかります。
④濾紙にはさみます。
⑤古新聞の上に濾紙をおいて、アイロン(高温)を片面ずつ2秒間、加熱します。
※この後、すぐ乾電池でごろんごろんと2往復ほどプレスするとさらに確実です
⑦濾紙から葉を取り外します。
⑧シャーレに入れて、上からうすいヨウ素液をスポイドでかけます。
こうすると、葉の形にどおりに青紫色になります。

ところが、日光に当てていない葉(一晩、アルミホイルでしっかりと覆った葉)でやった場合も、同じような結果が出ることがあります。ピーマンやトマトはかなりしっかり出てしまいます。

アイロンで過熱することで、なにか葉の中で変化がおき、デンプンが生成されるようなことがあるのでしょうか?

ご教示ください。よろしくお願いします。
田代様

質問コーナーへようこそ。歓迎いたします。いろいろ工夫をなさって授業を進めておられること感服いたします。ご質問に対する回答を早稲田大学名誉教授、現神奈川大学客員研究員の櫻井英博先生にしていただきました。あなたが考案された実験法についても詳しく検討をいtだきましたので、参考にして下さい。



[回答]
1.一般的原理
a) デンプンにヨウ素液をかけると、デンプンは青紫色ないし赤紫色に染色される。
b) しかし、通常の葉では葉緑体のクロロフィルが濃い緑色をしているので、葉をエタノールで処理してクロロフィルを抽出する、あるいは漂白剤で処理するなどして脱色しておくと、デンプンの染色を観察しやすい。
c) 一般に、葉はクチクラ層等でおおわれ、葉の細胞中の葉緑体は細胞膜で囲まれているため、エタノールで抽出されにくい。しかし、葉を熱湯に漬けるとクチクラや細胞膜の保護層が破壊されて葉緑素はエタノールによって抽出されやすくなる。


2.質問者の方法と結果:葉の中のクロロフィル濃度をある程度低下させれば、葉緑素をエタノール等で抽出しなくても、デンプンのヨー素液による染色を観察できるのではないか。
手法の意味づけ
1)爪楊枝の束でたたく
 ー>クチクラ層や細胞膜の保護層が物理的に破壊される
2)このようにした葉をろ紙で挟み、これを更に新聞紙で挟んで、アイロンをかける。
 さらに、乾電池ですぐにプレスすると効果的
 ー> 葉は葉肉細胞等からなり、葉肉細胞は細胞液や葉緑体を含む。葉緑体はクロロフィルを結合したチラコイド膜、水溶液状のストロマ、デンプン粒などからなり、葉緑体包膜につつまれている。
   爪楊枝処理によって細胞膜等が破壊されているので、ろ紙に挟んでプレスするとクロロフィルを結合したチラコイド膜断片の多くが液体(細胞液やストロマ)と共にろ紙に吸い取られる。
   このとき、デンプン粒の多くは元の位置付近にとどまっている。しかし、チラコイド膜断片の一部も元の位置付近にとどまるが、その割合は実験のやり方によって変動すると思われる。
   アイロン処理や、乾電池処理によって、ろ紙と葉の密着度が高くなるので、ろ紙によって吸い取られる液体量も多くなると考えられる。
   なお、アイロンの熱処理で破壊されるクロロフィル量は、一般的にそれほど多くないと考えられる(葉をゆでても天ぷらで揚げてもそれほど減らない)。植物の種類によっては、加熱の仕方にもよるが、クロロフィル分解酵素の活性が高まり、クロロフィルが多少分解されるかもしれない。


3.総合的評価
本実験法はエタノールや漂白剤を使わないで葉の中に蓄積されたデンプンを簡単に検出できるという利点がある。
一方、ろ紙で圧着するという方法では、クロロフィルを含むチラコイド膜断片の除去に限界がある。
材料となる植物の葉や実験手法に依存する部分が多いが、残存したクロロフィルの色がヨウ素デンプン反応の観察に大きな障害とならない程度に減らすことができるならば、実用化の価値があると考えられる。


>> ところが、日光に当てていない葉(一晩、アルミホイルでしっかりと覆った葉)でやった場合も、同じ
>> ような結果が出ることがあります。ピーマンやトマトはかなりしっかり出てしまいます。

植物の生育段階で、シンクの活性が低い時にはデンプンの分解活性も低いので、一晩ぐらいではあまり減少しないのではないかと思います。
暗黒の期間が長ければ、葉の呼吸基質として利用されていくので、デンプンが減少するかも知れません。

>> アイロンで過熱することで、なにか葉の中で変化がおき、デンプンが生成されるようなことがあるの
>> でしょうか?
デンプンの合成には原料となる糖質やATPのエネルギーが必要で、加熱により合成が促進されることはないと思います。
アイロンの効果としては、葉の中の水の流動性が高まり、ろ紙に吸い取られる水および葉緑体断片の量が増えたことが考えられます。

植物の種類、葉齢によっては、クロロフィラーゼの活性が高まることによりクロロフィルの減少が促進されるという効果が期待できなくもないのですが、この様なことは極めて特殊な場合に限られるのではないかと思われます。

櫻井 英博 (神奈川大学)
JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-07-02