質問者:
一般
masatoshi
登録番号2893
登録日:2013-07-04
子ども会で、地域の子ども達に様々な遊び体験のプログラムを作っていますが、プログラムの一つにコンニャク作りを考えています。こんにゃく芋を生で食べられないえぐみの正体は何でしょうか。
テキストを作っているのですが、こんにゃくのえぐみの正体がシュウ酸だという情報と、シュウ酸カルシウムだという情報があり、何が正しいのか調べてもハッキリわかりませんでした。
コンニャクを製造している人や製造会社のサイトでは、それらえぐみを取るために凝固剤として使う水酸化カルシウムなどのアルカリが同時にえぐみの成分を中和するのだと書いてありますが、別なサイトやこのサイトの質問のお答えの中に、サトイモのえぐみはシュウ酸カルシウムの針状結晶が原因だとあり、同じサトイモ科のコンニャクなら理由も同じなのかと思いました。
ですが、シュウ酸カルシウムが原因ならば水酸化カルシウム等のアルカリで中和というのが疑問に思えてきます。
いったいえぐみの正体は何なのか、また食品のコンニャクはどう言う原理でそれを取り除いているのでしょうか。
子ども達には正確な情報を伝えたいので、大変恐縮ですが教えて頂きたいのです。
masatoshi さん
みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
子供たちにコンニャク芋からこんにゃく作成を体験させることはとても良いことと思います。
コンニャク芋のえぐみは何かとのご質問ですが、えぐみについては登録番号1119, 1662をご参照ください。コンニャクはサトイモの仲間ですのでシュウ酸カルシウムを蓄積する性質をもっています。シュウ酸カルシウムは水不溶性で、細かい針状結晶となっています。シュウ酸カルシウムは劇薬に指定されているもので強い毒性をもつ物質とされています。少量が粘膜や皮膚に触れることでかゆみから灼熱感に至る激しい作用をもつと記載されています。生のコンニャク芋を齧ったことはありませんが、サトイモの葉柄を齧って喉がかゆくなると同時にチクチク痛む経験をしたことがあります。シュウ酸カルシウムはもちろんシュウ酸からでき、シュウ酸は広く植物に分布しています。作物でも、ある食品分析によるとシュウ酸含量(食品100g中のg量)は、コンニャク芋0.175g、サトイモ0.151g、ツルナ1.277g、ホウレンソウ0.650g、イタドリ0.433gなどとなっています。この値は、組織を酸性で抽出しますのでカルシウム塩を含むすべてのシュウ酸塩を測定したものです。コンニャク芋のシュウ酸含量はホウレンソウ、ツルナよりも小さいにも関わらず、強いえぐみを示すのは、コンニャク芋にはシュウ酸カルシウムが出来ているからです。もちろんコンニャク芋にもカルシウム塩以外に可溶性のシュウ酸塩(カリウム塩とかナトリウム塩、リン酸塩など)もあります。これらもえぐみの元となっていますが、えぐみの強烈さが違うためです。シュウ酸塩を区別せずに「シュウ酸」と言ったり、カルシウム塩の特殊性を強調するときなどは「シュウ酸カルシウム」と指定したりしているのではないでしょうか。因みに、植物組織でシュウ酸カルシウムの結晶ができるかできないか、どのくらいできるかは遺伝子で支配されていて、シュウ酸やカルシウムの量がシュウ酸カルシウムの量を決めるものではありません。
こんにゃく製造過程で用いる水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムなどの働きですが、ご指摘のようにシュウ酸カルシウム、水酸化カルシウムもともに塩基ですので「中和」ということではありません。しかし、こんにゃくの製造過程では、乾燥粉末の抽出物やすりおろした生芋を加熱するか、生芋をまず加熱して摩砕する、ことをしています。シュウ酸カルシウムは水に不溶(0.67mg/100g)ですが、95℃では1.4mg/100gほど溶解します。また、タロイモやゾウコンニャクの塊茎もよく煮ると(煮沸)えぐみがなくなり食用になることも知られていますので、加熱段階で失われてえぐみが消失したと考えられます。サトイモの芋も葉柄も、加熱すればえぐみがなくなることと同じです。
水酸化カルシウムなどはコンニャクを凝固させるために用いています。コンニャク芋の主成分であるグルコマンナンという水溶性の多糖類はアルカリ性で加熱すると不可逆的に凝固する性質をもっています。グルコマンナンはグルコースとマンノースが交互に1:1.6の割合でひも状につながった多糖類ですが、一部の水酸基がアセチル化(酢酸基とエステル結合)されています。エステル結合はアルカリ性に弱く、炭酸ナトリウムや水酸化カルシウムのような弱いアルカリでも加熱すれば外れます。アセチル基が外れると水酸基が露出し、グルコマンナン分子は近くの分子と水素結合で3次元的に結合するのでゲル状(不溶化)になるのだとされています。凝固物は再び元の水溶性に戻ることはありません。これがこんにゃく(食品)です。凝固剤はアルカリであればよいので、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)でも水酸化カリウムでもよいのですが、これらは強いアルカリですので使用法が難しいために使われないと思われます。
みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
子供たちにコンニャク芋からこんにゃく作成を体験させることはとても良いことと思います。
コンニャク芋のえぐみは何かとのご質問ですが、えぐみについては登録番号1119, 1662をご参照ください。コンニャクはサトイモの仲間ですのでシュウ酸カルシウムを蓄積する性質をもっています。シュウ酸カルシウムは水不溶性で、細かい針状結晶となっています。シュウ酸カルシウムは劇薬に指定されているもので強い毒性をもつ物質とされています。少量が粘膜や皮膚に触れることでかゆみから灼熱感に至る激しい作用をもつと記載されています。生のコンニャク芋を齧ったことはありませんが、サトイモの葉柄を齧って喉がかゆくなると同時にチクチク痛む経験をしたことがあります。シュウ酸カルシウムはもちろんシュウ酸からでき、シュウ酸は広く植物に分布しています。作物でも、ある食品分析によるとシュウ酸含量(食品100g中のg量)は、コンニャク芋0.175g、サトイモ0.151g、ツルナ1.277g、ホウレンソウ0.650g、イタドリ0.433gなどとなっています。この値は、組織を酸性で抽出しますのでカルシウム塩を含むすべてのシュウ酸塩を測定したものです。コンニャク芋のシュウ酸含量はホウレンソウ、ツルナよりも小さいにも関わらず、強いえぐみを示すのは、コンニャク芋にはシュウ酸カルシウムが出来ているからです。もちろんコンニャク芋にもカルシウム塩以外に可溶性のシュウ酸塩(カリウム塩とかナトリウム塩、リン酸塩など)もあります。これらもえぐみの元となっていますが、えぐみの強烈さが違うためです。シュウ酸塩を区別せずに「シュウ酸」と言ったり、カルシウム塩の特殊性を強調するときなどは「シュウ酸カルシウム」と指定したりしているのではないでしょうか。因みに、植物組織でシュウ酸カルシウムの結晶ができるかできないか、どのくらいできるかは遺伝子で支配されていて、シュウ酸やカルシウムの量がシュウ酸カルシウムの量を決めるものではありません。
こんにゃく製造過程で用いる水酸化カルシウムや炭酸ナトリウムなどの働きですが、ご指摘のようにシュウ酸カルシウム、水酸化カルシウムもともに塩基ですので「中和」ということではありません。しかし、こんにゃくの製造過程では、乾燥粉末の抽出物やすりおろした生芋を加熱するか、生芋をまず加熱して摩砕する、ことをしています。シュウ酸カルシウムは水に不溶(0.67mg/100g)ですが、95℃では1.4mg/100gほど溶解します。また、タロイモやゾウコンニャクの塊茎もよく煮ると(煮沸)えぐみがなくなり食用になることも知られていますので、加熱段階で失われてえぐみが消失したと考えられます。サトイモの芋も葉柄も、加熱すればえぐみがなくなることと同じです。
水酸化カルシウムなどはコンニャクを凝固させるために用いています。コンニャク芋の主成分であるグルコマンナンという水溶性の多糖類はアルカリ性で加熱すると不可逆的に凝固する性質をもっています。グルコマンナンはグルコースとマンノースが交互に1:1.6の割合でひも状につながった多糖類ですが、一部の水酸基がアセチル化(酢酸基とエステル結合)されています。エステル結合はアルカリ性に弱く、炭酸ナトリウムや水酸化カルシウムのような弱いアルカリでも加熱すれば外れます。アセチル基が外れると水酸基が露出し、グルコマンナン分子は近くの分子と水素結合で3次元的に結合するのでゲル状(不溶化)になるのだとされています。凝固物は再び元の水溶性に戻ることはありません。これがこんにゃく(食品)です。凝固剤はアルカリであればよいので、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)でも水酸化カリウムでもよいのですが、これらは強いアルカリですので使用法が難しいために使われないと思われます。
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-07-19
今関 英雅
回答日:2013-07-19