一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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ニシキギの翼について

質問者:   教員   こんどう
登録番号2916   登録日:2013-07-29
先日,野外観察の際にニシキギを観察する機会がありました。
その時,ニシキギの翼の適応的意義について質問があったのですが私は分からず,様々な意見を出し合って終わりました.
前の方の質問に,翼が緑色であれば光合成の助けをしているとありましたが,ニシキギの場合はコルク質であり,それには当たらないと思います.そこで,以下の2つの質問をさせてください.よろしくお願いします.

1.ニシキギの翼のコルク質は植物体のどの組織に由来し,いつの段階で成長してくるのか.
2.ニシキギの翼の適応的意義は何なのか?
みんなのひろばへのご質問ありがとうございました。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一先生にお願いいたしましたところ、塚谷先生は以前からこの問題に興味を持っておられたとかで、早速、ご回答をお寄せ下さいました。ご参考になると思います。    



塚谷先生のご回答
こんどう様
 ご質問ありがとうございます。ニシキギは学名をEuonymus alatus (Thunb.) Siebold f. alatusというように、Euonymus alatus (Thunb.) Sieboldの一品種です。このEuonymus alatus (Thunb.) Sieboldの種内変異の中には、ケコマユミ、ケニシキギ、コマユミ、オオコマユミなどがあります。これらのほとんどは、ニシキギのようなコルク層の発達を見せないか、わずかです。また同属近縁種の中にも、コルク層の発達の顕著なものはありません。またニシキギの中でも、見くらべてみるとコルク層の著しく発達するものから、それほどでもないものまで変異が見られます。そのことからしますと、ニシキギは実は一種の奇形ではないでしょうか。ご指摘の通り、ニシキギのコルク層は完全にコルクであって、光合成の役には全く立ちません。しかしコルク層の発達が特に生存・繁殖にとって不利でも有利でもなかったため、いわゆる中立的変異として集団の中で振るまい、たまたま蓄積したのがニシキギだと思います。加えて、鑑賞価値が大変高いため、人為的に繁殖を助けられたこともあり、世の中に広く分布するようになったのでしょう。一般に生物の形態の進化は、用不用説で考えすぎない方が妥当です。とくにニシキギのように、人為的に庭植え用に大量生産されている種類の場合は、野外で見かけたとしても、その逸脱であることが多いので、必ずしも本当の野生とは限りません。
 なおニシキギのコルク層は、ワインの瓶の蓋に使うコルク樫のコルクと同じで、コルク形成層に由来します。この発達は、特に顕著な株で観察していますと、新しい枝が伸長しきった頃には既に表皮を突き破って出始めているのを見ることができます。しばしば庭や時として道路のグリーンベルトなどにも植えられていますので、是非ご観察下さい。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻)
JSPPサイエンス・アドバイザー
柴岡弘郎
回答日:2013-08-02
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