質問者:
一般
ごぼー
登録番号2920
登録日:2013-08-01
普段から野菜の生理を理解したうえで栽培することを心がけておりこちらのサイトもよく拝見しております。フルクトース二リン酸からグルコースに変わるときのリン酸の行方
まだまだ勉強不足な中、光合成についてもう一度しっかり理解したいと思い勉強し直していた際に疑問に思ったことです。
カルビンベンソン回路でその図を本やネットで見てみるとフルクトース二リン酸にはリン酸がくっついているのにその後グルコースに変換されるとリン酸がどこかへいってしまっているように感じてしまいます。このときリン酸はどこへいってしまったのでしょうか?また、このリン酸は野菜の味に影響する可能性があるのでしょうか?
リン酸の質問をもう一つさせてください。私は自分の畑に有機肥料のリン酸を施肥しているのですが動物の骨灰が味を良くすると肥料屋さんに言われ使用しています。他のリン酸肥料と比べ何が違うのかということなんですが説明がつくことなのでしょうか?(ちなみに肥料屋さんは根拠はわからないが、そういう結果になるとのことでした。)
今後の栽培に活かしたいと思いますのでよろしくお願い致します。
ごぼー 様
本コーナーをよく見て下さっていると聞いて励まされます。ご質問には、植物栄養学の分野で研究されておられる京都大学の間藤 徹先生が回答して下さいましたので、ご参考にして下さい。
(間藤先生からの回答)
最近のお百姓さんはよく勉強しておられますね。こちらの仕事がなくなってしまいます。生産者の方とリンの肥効についてディスカッション出来るのはとっても楽しいことです。
肥料として施肥されるリン酸は、無機リン酸と呼びます。化学式で書くとH3PO4、略号で示すとPi (phosphate inorganic)です。専門家は、Piをリン酸、あるいは無機リン酸と読むことが多いです。
植物は土壌からPiを吸収します。動物では強酸性の胃内で食物から外れてくるPiを吸収します。動物でも植物でも細胞中にはATP(アデノシントリ(tri)フォスフェート、頭文字を取ってATPと呼びます)という物質があり、細胞内のエネルギーの貯蔵や運搬に働いています。ATP分子では、名前が示すようにアデノシンにPiが3コ並んで結合しています。根から、あるいは胃で吸収されたPiは細胞内でまずATPになります。
細胞内で、例えばグルコースが酵素反応を受けようとする時、まずPiがひとつ結合してグルコース-1-リン酸になり、この形でいろいろな反応に関わります。つまりPiが結合することが反応の準備となるわけで、この反応を一般にリン酸化と呼びます。リン酸化反応は、グルコースとATPが反応し、グルコースはグルコース-1-リン酸になり、ATPはADP(アデノシンジ(di) フォスフェート)になるように進行します。つまりATPの3つのPiのひとつがグルコースに渡されてグルコース-1-リン酸となり、自分はADPになるということですね。
光合成の産物としてのショ糖やデンプンの蓄積に至る反応の過程で、フルクトースジ(di)リン酸やグルコースリン酸からリン酸が除去され、無機リン酸の形で遊離することになります。いろいろな反応が進行して細胞中のPi濃度が高くなってくると、ちょうど根で土壌から吸収されたときのように、Piはもう一度ATPに戻り、必要に応じてリン酸化反応などに使われます。カルビン・ベンソン回路でフルクトースジリン酸から放出されるPiもこのように再利用されてATPになりますが、葉緑体内のPiの濃度が低いので食味などに影響することはないと思います。
細胞の中でPiを含む化合物には、ATPやグルコース-1-リン酸の他に、DNAやRNAがあります。これらの物質は遺伝子を構成しているのでとても大事な化合物です。このためリン酸は実肥として種子や果実の形成にとても重要です。
一方で、動物では骨や歯などの硬組織があり、これを形成するのがリン酸カルシウムです。つまりリン酸は生物の身体のなかで、骨からDNA、ATPの成分としての利用に至るまで幅広く活躍しています。ですから植物にとっても、動物の骨はリン酸の供給源になるので骨粉や肉骨粉として肥料として使われてきました。19世紀には昔の人のお墓を暴いて骨を肥料原料として使ったという記録もあるくらいです。骨を蒸して作る蒸製骨粉はリン酸カルシウムの他に骨のコラーゲンも含まれており、窒素肥料としてもリン酸肥料としても使えるよい肥料でした。しかし、狂牛病が発生したため、いまは蒸製骨粉を肥料として使用することには厳しい規制があり、市場で入手できるのは、もっと高温で焼いて作られた焼成骨粉に限られます。焼成骨粉(灰)骨はなかなか水に溶けませんからゆっくりと効く肥料なので基肥として使用し、お礼肥や追肥には使いません。また、ごぼーさんの畑の土の可吸態リン酸を測定してみて、もしもう既にリン酸がたくさんあるようなら骨粉や骨灰肥料はリン酸肥料としてはあまり有効ではないでしょう。しかし、土壌pHが低めならリン酸分ではなく石灰分としてpHを矯正することで作物の生育に有効なこともあります。
土壌に与えるリン酸肥料が作物に吸収され、細胞の中でいろいろと活躍する様子を想像するとわくわくしますね
間藤 徹(京都大学大学院・応用生命科学専攻)
本コーナーをよく見て下さっていると聞いて励まされます。ご質問には、植物栄養学の分野で研究されておられる京都大学の間藤 徹先生が回答して下さいましたので、ご参考にして下さい。
(間藤先生からの回答)
最近のお百姓さんはよく勉強しておられますね。こちらの仕事がなくなってしまいます。生産者の方とリンの肥効についてディスカッション出来るのはとっても楽しいことです。
肥料として施肥されるリン酸は、無機リン酸と呼びます。化学式で書くとH3PO4、略号で示すとPi (phosphate inorganic)です。専門家は、Piをリン酸、あるいは無機リン酸と読むことが多いです。
植物は土壌からPiを吸収します。動物では強酸性の胃内で食物から外れてくるPiを吸収します。動物でも植物でも細胞中にはATP(アデノシントリ(tri)フォスフェート、頭文字を取ってATPと呼びます)という物質があり、細胞内のエネルギーの貯蔵や運搬に働いています。ATP分子では、名前が示すようにアデノシンにPiが3コ並んで結合しています。根から、あるいは胃で吸収されたPiは細胞内でまずATPになります。
細胞内で、例えばグルコースが酵素反応を受けようとする時、まずPiがひとつ結合してグルコース-1-リン酸になり、この形でいろいろな反応に関わります。つまりPiが結合することが反応の準備となるわけで、この反応を一般にリン酸化と呼びます。リン酸化反応は、グルコースとATPが反応し、グルコースはグルコース-1-リン酸になり、ATPはADP(アデノシンジ(di) フォスフェート)になるように進行します。つまりATPの3つのPiのひとつがグルコースに渡されてグルコース-1-リン酸となり、自分はADPになるということですね。
光合成の産物としてのショ糖やデンプンの蓄積に至る反応の過程で、フルクトースジ(di)リン酸やグルコースリン酸からリン酸が除去され、無機リン酸の形で遊離することになります。いろいろな反応が進行して細胞中のPi濃度が高くなってくると、ちょうど根で土壌から吸収されたときのように、Piはもう一度ATPに戻り、必要に応じてリン酸化反応などに使われます。カルビン・ベンソン回路でフルクトースジリン酸から放出されるPiもこのように再利用されてATPになりますが、葉緑体内のPiの濃度が低いので食味などに影響することはないと思います。
細胞の中でPiを含む化合物には、ATPやグルコース-1-リン酸の他に、DNAやRNAがあります。これらの物質は遺伝子を構成しているのでとても大事な化合物です。このためリン酸は実肥として種子や果実の形成にとても重要です。
一方で、動物では骨や歯などの硬組織があり、これを形成するのがリン酸カルシウムです。つまりリン酸は生物の身体のなかで、骨からDNA、ATPの成分としての利用に至るまで幅広く活躍しています。ですから植物にとっても、動物の骨はリン酸の供給源になるので骨粉や肉骨粉として肥料として使われてきました。19世紀には昔の人のお墓を暴いて骨を肥料原料として使ったという記録もあるくらいです。骨を蒸して作る蒸製骨粉はリン酸カルシウムの他に骨のコラーゲンも含まれており、窒素肥料としてもリン酸肥料としても使えるよい肥料でした。しかし、狂牛病が発生したため、いまは蒸製骨粉を肥料として使用することには厳しい規制があり、市場で入手できるのは、もっと高温で焼いて作られた焼成骨粉に限られます。焼成骨粉(灰)骨はなかなか水に溶けませんからゆっくりと効く肥料なので基肥として使用し、お礼肥や追肥には使いません。また、ごぼーさんの畑の土の可吸態リン酸を測定してみて、もしもう既にリン酸がたくさんあるようなら骨粉や骨灰肥料はリン酸肥料としてはあまり有効ではないでしょう。しかし、土壌pHが低めならリン酸分ではなく石灰分としてpHを矯正することで作物の生育に有効なこともあります。
土壌に与えるリン酸肥料が作物に吸収され、細胞の中でいろいろと活躍する様子を想像するとわくわくしますね
間藤 徹(京都大学大学院・応用生命科学専攻)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤公行
回答日:2013-08-20
佐藤公行
回答日:2013-08-20