一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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四つ葉のクローバーの発生要因に関する研究ついて

質問者:   教員   はせじゅん
登録番号2923   登録日:2013-08-03
 高校生の課題研究で「四つ葉のクローバーはなぜできるか」というテーマで研究をしています。
 まず、四つ葉ができる原因がジェネティックなもの(DNAそのものが変化した)なのか、エピジェネティックなもの(DNAそのものが変化したのではなく、mRNAやタンパク質の発現が異常)なのかを明らかにしたいのですがどのような実験をすればよいのか考え倦ねているところです。
 現在のところ、①シロツメクサの葉の発生のしかたを実体顕微鏡で観察する②葉原基を取り出して組織培養する③四つ葉を多く発生しているシロツメクサの株を採取し、実験室で栽培し、増殖させることをしています。
 このあと、遺伝子レベルで、④RAPD法で四つ葉と三つ葉の株で違いが見つけられるか⑤DD法で同様に違いが見つけられるかを実験しようと思っていますが、この方法でよいのかどうか迷っています。とくに葉の形態形成に関する遺伝子がわかっていて、そこにターゲットを絞って研究できればよいのでしょうが・・・。
 ぜひ、研究のストラテジーについて、専門家の方のご意見を頂戴いただければありがたいです。(なお、本校はSSH指定校ということで、PCRや電気泳動、クリーンベンチなどの装置は揃っております)
はせじゅん さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。
回答は東京大学の塚谷裕一先生にお願いしました。
「四つ葉のクローバーはなぜできるか」を高校生の遺伝研究課題とするチャレンジは面白そうですが、クローバーとはどんな遺伝的背景にある植物か、そして、四つ葉のクローバーについて今までどんなことが分かっているかを、まずお調べになることが大切だと思います。このコーナーにも関連する質問が今までにたくさんあります。その中でも登録番号2089、登録番号0624は参考になると思います。このほか登録番号登録番号0761、登録番号1225、登録番号1403、登録番号1808などがありますので、これらも参考になると思います。「四つ葉を多く発生しているシロツメクサの株」を採取されているようですが、どのくらいの頻度で四つ葉が発生するのか、その頻度は遺伝形質として取り扱える状態になっているか、は重要な予備知識になります。


【塚谷先生のお答え】
はせじゅんさん
 ご質問拝見しました。端的に言いますと、これはかなり困難です。
 四つ葉のクローバーは、しばしば近くにかたまって見つかりますから、私も、多くは変異系統である可能性が高いと思います。実際、これまでに野外集団からの選抜として、頻繁に四葉、あるいはそれ以上の数の小葉をつける系統がいくつか確立しています。園芸関係の通信販売を検索していただくと、何系統かみつかります。これらは遺伝性が確認されていますので、ジェネティックなものか、エピジェネティックなものかは分かりませんが、何らかの変化をゲノムに持っていると期待されます。ですが、これの原因を見つけるとなると、これは大学院生のテーマとしてもかなり難しい部類に入ります。
 というのも、実験植物であるシロイヌナズナなどと違い、野生状態のものをそのまま持ち込んだ系においては、DNAの配列は個体ごとに相当違っています。いやシロイヌナズナですら、例えばColumbia系統という系統が世界中に流布して解析に用いられていますが、私たちの研究室で維持している株と、隣の研究室で維持している株とは、DNA配列にしてみると、ずいぶんもう違ってしまっています。これはシロイヌナズナの場合、1世代あたり平均1塩基ずつ変異がはいるためです。
 野生植物は事情がもっと複雑です。何しろ実験植物と違って、遺伝子座をそれぞれホモ接合にするという遺伝的な純化がまったくなされていません。ですから一つの個体の中の特定の遺伝子座ですら、DNA塩基配列は2通りになってしまいます。これほど乱雑なゲノムの状態では、野生株と変異株とを直接比較しても、あまりに多くの違いが検出されて、どれが果たして意味のある違いなのか、決めようがありません。やるとすれば、まずいったん、シロツメクサについて純系ホモ接合の野生株を作出するところから始めないといけません。これには何年もかかるでしょう。ですので、事実上、無理な計画と言えます。現に、四葉のクローバーの遺伝子を決めようとチャレンジしている研究者も、きっと世の中はいると思いますが(昨年ある国際会議で、四葉の変異体を放射線照射によって単離したという報告はみました)、成功例は未だに聞きません。
 ご提案の実験のうち、シロツメクサの葉の発生のしかたを実体顕微鏡で観察するというのは、大事なことだろうと思います。地道ですが、これを数多くこなすことで、小葉の発生のどこが異常を来しているのかが分かるはずです。それこそが、科学的な営みと言えると思います。最近、日本植物生理学会や日本植物学会では、高校生の研究発表の機会を設けています。その中には、とにかくDNAを解析することが目的になってしまっているものがあります。でもそれは「かっこよさそう」ではありますが、しばしば科学的な推論や考察が抜け落ちていて、残念ながら科学的とはあまり言えず、そのために表彰には至らないものです。今回の場合も、やはりまずはどこがどうおかしいのかをきちんと疑問の余地無く突き止めて、そこから推論される仕組みをまず考え出すことが先決だろうと思います。その結果として、仰るように、「もしかしたらXXに関係した遺伝子がおかしいのではないか」という推論が導かれたならば、そこで初めて、具体的に分子遺伝学的な解析の戦略が立てられるというものです。
 大学院生のテーマだとしても、やはり私だったら学生にそういう順番で解析を勧めるように言い聞かせるだろうと思います。
 ご参考になれば幸いです。

塚谷 裕一(東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻・教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-08-19
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