一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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糖組成と細胞(腋胞)の大きさとの関連について

質問者:   その他   紙谷 拡志
登録番号0293   登録日:2005-06-30
はじめまして。
私は岩手大学農学部で細胞と糖組成の研究を行っているものです。
現在、私どもが行っている研究について意見を頂きたく思い、質問しました。
お忙しい中、失礼かと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 研究内容ですが、リンゴ果肉細胞(腋胞)の大きさと糖組成が関連しているのではないか、と仮説を立ています。
これまでの研究から、成熟時の果肉細胞の大きさが大きければ、スクロースの集積が促進される事象がわかっています。
そのため、生育後期にスクロースが蓄積するためには、細胞の大きさが一定以上肥大することが必要条件なのではないかと考えています。

そこで、現在までに、細胞の肥大とスクロース合成酵素活性や遺伝的な発現過程など、何か関連があると思われる報告はなされているのでしょうか?
すみませんが教えてください。
 紙谷 拡志さん

質問に対する回答を、名古屋大学 山木昭平先生にお願いしましたところ、以下のようなご回答を頂きました。

・果実が大きくなるのは細胞の肥大程度(大きさ)と細胞の数の両要因だといわれております。細胞肥大の推進力は液胞の浸透圧による膨圧によります。しかし、細胞の大きさの決定はこれらの要因とは別のもので、いわゆる大きさ(器)を支配する遺伝子があると考えられています。その具体的な中味については私の知る限り(トマトでそれに関連した遺伝子の報告がありますが)まだ特定の遺伝子が同定された例は無いと思います。
・リンゴ果肉細胞の大きさと糖組成が関連しているとの考えは一般的には言われておりません。ご承知と思いますが、リンゴやナシ果実が生長する時、最も肥大が活発な未熟な果実ではスクロースは蓄積せず、殆どがヘキソースです。そして、肥大が緩慢になる成熟期になるとスクロースが急激に蓄積し始めます。これは考え方によっては理にかなっております。即ち、肥大を活発に推進するには1モルのスクロースよりも2モルのヘキソースにすることによってより液胞の浸透圧を高め、膨圧を強くした方が有利である。また、成熟果では貯蔵エネルギーとして果実細胞に糖を蓄積するには2モルのヘキソースよりも1モルのスクロースとして蓄積した方が細胞への負荷を軽減出来るために有利である。この成熟時でのスクロースの蓄積にはスクロースリン酸合成酵素やスクロース合成酵素の遺伝子発現が報告されています。そして、これらの酵素は成熟を誘導するエチレンによって誘導されません。一定の大きさになると発現誘導されるかについての報告はありません。
リンゴ果実では知りませんが、ニホンナシ果実では同じ品種の成熟果で大きさの個体差、年時差があります。その場合、細胞の数にかなりの差がありますし、もちろん大きさにも差がありますが、成熟した果実が小さい場合にスクロースの蓄積(含量/新鮮重)が少ないとは認識しておりません。

 山木 昭平(名古屋大学大学院生命農学研究科) 

 果実のような植物細胞では成長(肥大成長)を保証する溶質に糖類を利用する局面があるようですが、その成長のメカニズムと果実のような一種の貯蔵器官の細胞が糖類を蓄積するメカニズムを区別して考える必要があると思います。果実は強力なシンク器官で、ショ糖が盛んに転流されてきます。果実成長の初期にはこれら転流糖はデンプンとなって一時的に蓄積されますが、リンゴ、ナシなどデンプン非蓄積型の果実では肥大成長するとデンプンは蓄積型の糖(ショ糖、ブドウ糖、果糖、ときにはソルビトールなど)へ転換されます。したがって、果実細胞の成長(肥大)とこれら糖代謝に関与する遺伝子発現の状況を綿密に調べることで、まず両者の関係を明らかにすることが必要でしょう。(今関 英雅)
JSPPサイエンス・アドバイザー
 今関 英雅
回答日:2009-07-03
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