一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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遺伝子組み換え操作で木が草になりえますか

質問者:   その他   二上山の風
登録番号2937   登録日:2013-08-13
 質問番号2892で「木本が草本へと変化していく証拠となる化石や現存する植物で、その経過を証明するようなものはありますか?」という質問をしました。その続きの質問になります。
 木本はその特徴である形成層により年々肥大成長して、木部をつくってより大きく、より高くなり、太陽光を効率よく獲得するよう進化しました。このだいじな形成層をあえて捨てたものが草本ということになります。そこである木AのすべてのDNAの中から形成層を形成する遺伝子を探し出して、それを除いて、植物を成長させたら、草aができるのではないかとシロウト的には考えます。どんぐりのなる木Aからどんぐりのなる草aができるかもしれません。逆に草bに形成層を形成する遺伝子を組み込めば木Bができるのではないかと思います。
 このような遺伝子組み換え植物の研究はいまなされているのでしょうか。どの程度進んでいるのでしょうか。それらの植物を見てみたいです。
二上山の風様

木本と草本の進化、面白いですよね。誤解があるようですが、形成層は草本植物にも木本植物にもあります。木本植物ではその活性が長続きする傾向があります。ただ、草本植物でも例えば、ナスやトマトなどは温室で育てれば形成層が発達を続け、太い木のようになります。ですから、形成層を無くしてしまうと、草本植物も育たなくなってしまいます。木本と草本の間には、越冬芽を作るとか、樹皮が発達するとか、形成層の活性以外にいろいろな点で違いが見られます。

木本から草本への進化は形成層の活性が短期間で無くなるように進化した可能性もあります。ただ、1年で枯れるだけでは子孫が残せず進化がおこりませんので、1年以内に花を咲かせて種を付けられるようになる進化がおこることがそれより先に必要だったと推定されます。木本植物(例えばリンゴなど)で遺伝子操作によって1年で花を咲かせることが可能になっています。この変異体にさらにいろいろな突然変異を導入すれば、草本のようになるかもしれませんね。私の知る限りでは、まだそのような変異体は発表されていないように思います。

前回の回答では、木本から草本への進化の説明をしましたが、草本から木本への進化もおこります。シソ目は被子植物の中では派生的な群ですが、モウセイ科など木本性の科を含み、これらは、被子植物の基部で草本が進化したあと、再び、木本化したと考えられます。また、シソ目の基部系統(モウセイ科など)が木本で、派生的な科が草本なので、シソ目の中でも木本から草本への進化がおこっています。さらに、シソ目の派生的な科の中では、シソ科の一部の種やキリ科のように、草本から再び木本へと進化しています。このように木本から草本、草本から木本への進化は被子植物の約2億年ほどの進化の歴史の中で複数回おこっています。
JSPP広報委員長
長谷部 光泰
回答日:2013-08-20