一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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芽の上に蓋をすると何故曲がるのか?

質問者:   一般   ニッキーの母
登録番号2944   登録日:2013-08-20
息子が自由研究で種子の発芽時の力について調べました。最初、大豆の種を植えた上に小さな四角いプラスチック板(4隅にストロー片を取り付け、そこに竹串を通して、水平を保ちながら上下へ抵抗なく動く装置を作成)をのせ、発芽した芽がどれだけのおもりを持ち上げられるか観察しました。息子は単純に、ある程度の重さまでならプラ板をぐっと持ち上げるだろうと期待していましたが、プラ板はいずれの重さでも持ち上がらずに、かわりに芽はプラ板の下を這って生長し、脇からひょっこり顔を出して上へ伸び始めました。「実験失敗か!?」とあせり、今度は注射器の中に土を入れ種を育てることにしました。おもりは「押し子」の周辺を少し削って外筒との抵抗をなくし、その上にのせました。数種の種を育てましたが、ほとんどの芽はおもりの重さに関わらず、まずは頭上を塞いでいるものに触れるとそれを避けるように伸びはじめ、注射器の内側の壁にそって水平にぐるぐる回りながら少しずつ上方へおもりを持ち上げたり、あるものは頭上のおもりをある程度持ち上げたところで、今度は地面方向へ伸び、地面にぶつかるとまた上方へ伸びるというように蛇行しながら、緩徐におもりが持ち上がっていく、というパターンを示しました。感覚的に、芽の伸びる先が塞がれていれば曲がるのは当然、というような気がしますが、実際は単純にそのような物理的な理由だけなのだろうか?と気になって仕方ありません。例えば、成長点?が何かに触れると、その側の細胞の成長が促進されて(オーキシンの移動か何かが起こることで)結果として障害物を避けるように伸長するのかしら?と勝手な推測をしています。
 また、注射器の内側と押し子の間のわずかな隙間をみつけて、たくましく上方に伸び始める様子が観察できましたが、これも「どのようにしてこの隙間に到達しているのだろうか?偶然、隙間に遭遇したとしても、いままで横に伸びていたものがその隙間に触れることで、どうやって急に伸長の方向を変えられるのか?明らかに茎の径よりも小さな隙間に無理矢理入り込んで、茎が扁平になったり隙間にめり込んでくびれるようになりながらも、どんどん生長してゆくのはどのような仕組みなのだろう?」と考えを巡らせています。これらの疑問について御教授頂ければ幸いです。
質問コーナーへようこそ。
歓迎いたします。息子さんは面白い実験を思いつきましたね.四隅にスライドできるストローの支柱を作る等いい着想です。さて、植物の芽生えが予想しない力(?)で地面の障害物をもちあげたりする現象はしばしば目にします。植物は果たしてそんな力を持っているのだろうかと不思議に思いますね。直接の回答に先立って、まず植物の生長(伸長)の特性について述べましょう。植物は普通根と茎という軸性の器官が主体をなしています。根は重方向へ伸びようとし(正の重力屈性)、茎は重力と反対の方向(負の重力屈性)、そして光の方向へ(光屈性)伸びようとします。もし何も障害物がなかったり、機械的な刺激等がなければ真っ直ぐ伸びます。そして、傷害物があればそれを避けるようにして生長を続けます。ではなぜ根が土の中を真っ直ぐ伸びて行けるかというと、土は固体(solid)ではなく、大小の粒子から構成されています。従って大小の隙間が無数にあります。普通はそこは水分で満たされています。根の先端は土の粒子にぶち当たるとそれを避けて隙間へと伸びていきます。生長は伸びることと、太ることと両方がありますから、太ることで粒子をかき分けることが出来ます。茎の場合も同じです。芽生えがt土の中から真っ直ぐ伸びてくるのも同じことです。このことに関連する説明は登録番号2035の質問と回答を是非読んで下さい。また、本学会が編集して、最近講談社ブルバックスで出版された『これでなっとく!植物の謎part 2』のQ54も読んでいただければ幸いです。
 さて、ご質問のことですが、最初に作成した装置で蓋が持ち上がらなかったのは、単に蓋が重かったからではないかと思います。もし、とても軽い紙のような材料を使ったら、芽生えはある程度蓋を持ち上げるのではないでしょうか。また、植物を一本だけではなく多数まとめて集団の力にすれば、持ち上がるかもしれません。いずれにしろ、茎の先端(茎頂)は何かの物理的障壁にぶち当たると、それを回避するため生長方向を変えます。この時の方向はケース・バイ・ケースでしょう。植物は障壁を感知すると、何かの内部シグナルが生じて伝達され、それに反応する結果として、生長方向の変更などが起きるのです。そのシグナルはエチレン(気体)という植物ホルモンです。エチレンについては質問コーナーで検索して下さい。エチレンは伸長を抑制しますが、茎を太らせる働きがあります。そして、植物は接触刺激のような機械的刺激が与えられると、エチレンを生成します。仮に茎の先端で、一方の側が接触刺激を受け、そこでエチレンが生成されるとその部分の生長は抑制されます。茎の両側で起きる生長速度の小さな差でも屈曲は顕著に起きます。作物の栽培ではこの現象を逆手にとって利用しています。シュガービート(甜菜)の苗の頭をブラシなどでまんべんなくなでてやって、茎の太い丈夫な苗に育てたり、菊等草花の植物体の頂部をなでて背丈を低く、花を早く咲かせたり、いろいろあります。昔行われた「麦踏み」も、そうとは知らずやっていたことです。
 茎の形や太さは勿論遺伝的には決められていますが、物理的な枠が嵌められると、それにあった形に変形して生長をつづけます。竹を四角い枠にはめて四角い竹を作ることもできます。根でも存在する障害物によって太さや形状を様々に変えることができます。
 植物は実に柔軟性に富んでおり、たくましいですね。
JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-08-27