一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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節間の身長抑制について

質問者:   公務員   たな
登録番号2945   登録日:2013-08-21
 今年、7月いっぱい曇雨天が続き、テッポウユリの止め葉下の節間が以上に間延びし、首長な状態となってしまいました。
 この節間の徒長には寡日照・湿度高(土壌水分、土壌水分過多)が影響しているのか、窒素肥料の過剰吸収が影響しているのか、などの原因が追及できないでいます。
 また、この節間の徒長抑制のためには、ジベレリンの生成を抑えることが必要なのか?とも考えたのですが・・・。

①日照不足時(加えて土壌の水分過多?)には、窒素が優先的に吸われるとの言い伝え?。これは正しいのか。
②植物生長調整剤が使えなく、何の成分(カルシウム?)を与えたらジベレリンの生成を抑える事ができるのか。
について、ヒントとなるような助言をいただければ幸いです。どうかよろしくお願いします。
たな さん:

みんなの広場質問コーナーのご利用ありがとうございます。

植物成長における、窒素と炭素の関係は植物栄養学での大きな課題で、実際の施肥学的なものから分子レベルでの研究まできわめて多くの研究がおこなわれています。それだけに、ご質問はお答えするのが大変難しいものですが、実際的な面から京都大学の間藤 徹先生にお答えを頂きました。(2)のついては少し補足を追加しておきました。



【間藤先生のお答え】

1) 日照不足で窒素が優先的に吸われるか?

ユリの節間徒長は基本的には日照の不足だと思います。節間伸長が窒素過多で助長されることは実験的には確認されています。しかし、圃場では窒素施肥がよほど多くなければ、節間伸長にあまり影響しないように思います。 実際の生産者圃場で栽培後期に窒素過多と判断されると、潅水を多めにして窒素を流してしまいます。

日照不足のときに徒長する現象はさまざまな植物で観察されます。おそらく光と植物ホルモンの相互作用による現象なのだろうと思います。 弱光下では光合成が抑制されて有機炭素化合物の蓄積が起こらず乾燥重量があまり増えませんが、窒素の吸収はほとんど低下しないため、窒素が有機化される相手の炭素量に比べて相対的に窒素過剰の状態になり窒素の吸収が促進されるように見えます。一般に不良環境下でも窒素の吸収はあまり抑制されません。したがって、不良環境で窒素が体内炭素化合物に比べて過剰吸収されるのは結果の解釈で、不良環境だから窒素が吸収されるのではありません。



2) ジベレリンの成長を抑える方策

矮化剤以外でジベレリン、オーキシンの作用を抑える処理を知りません。カルシウムを例えば葉面散布したくらいでは効果はないと思います。施肥関係では基本的に窒素は少なめに与えて追肥で効かせるのがよいとおもいます。尿素がおすすめですが有機ということでしたら窒素含有率の高い魚粕(8〜10%程度)がおすすめです。

間藤 徹(京都大学大学院 応用生命科学専攻)



【補足】

ジベレリンの生成を抑えるためにはその生合成に関与する酵素の働きを阻害する薬剤を与えるか、酵素の生成を抑制する(遺伝子の発現を阻害する)ことが必要です。前者のために開発されたのが矮化剤ですが、それ以外の方法として接触刺激を応用する方法があります。植物に接触刺激を与えると、微量ですがエチレン生成を促進し、そのエチレンが茎の伸長成長を抑制します。テッポウユリやサトウダイコンの育苗期から毎日軽度の接触刺激を与えると矮化や徒長抑制の効果があり、実際に利用されたこともあります。具体的には、柔らかいブラシなどで茎や頂部を毎日こするだけです(機械化されていたようです)。

イネ、コムギなどでは、突然変異による矮性品種がいくつかあり、ジベレリン生合成に関与する酵素遺伝子の欠失によるものがあります。これを利用して育種的に矮性品種の矮性形質を非矮性品種(伸長以外の形質が望ましい品種)に導入して半矮性化品種を育成する方法がとられてきました。現在の品種はほとんどそのように育種されたものです。ユリで突然変異による矮性品種があれば、育種的に新たな矮性品種を育成することは理論的には可能です。

今関 英雅(JSPPサイエンスアドバイザー)
JSPPサイエンスアドバイザー
今関 英雅
回答日:2013-09-02
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