一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の窒素固定について

質問者:   一般   jepenses
登録番号2966   登録日:2013-09-24
質問のタイトルが「植物の窒素固定について」と言う事ですが、正しいタイトル
ではないかも知れませんね。植物でも、窒素固定が出来る植物は、根粒菌と共生が出来る植物と理解していますから。
今回、一般的な植物の、無機質の窒素からアミノ酸合成までのことについて、お聞きしたく思います。まず私が得ている知識について書いてみます。
植物は、一般的には(マメ科の植物を含む根粒菌と共生が出来る植物を除く)、根から、硝酸態の窒素を取り込み、亜硝酸化させる還元酵素により、亜硝酸態の窒素に変換し、この亜硝酸の窒素は、アンモニア態の窒素に変換させる還元酵素により変えられ、さらにグルタミン合成酵素によって、アンモニア態の窒素は、グルタミンに変えられ、最終的には、グルタミン酸にされると聞きます。

長々書きましたが、無機質の硝酸態の窒素から、グルタミン酸酸を合成する過程について書いてみました。この解釈で、間違いないでしょうか? ただ内容をだいぶ省力しましたが。

二つ目の質問をさせて下さい。合成されたグルタミン酸から、植物は、アミノ酸転移酵素を使って、グルタミン酸以外の、他の19種類のアミノ酸全部を、本当に作り出せるのでしょうか? ヒトのように、20種類(正確にはセレノシステインやピロリジンを含めると22種類)あるアミノ酸の内、8種類は自ら合成出来ないと言った事はないのでしょうか?

蛇足ですが、マメ科の植物についても、お聞きしたく思います。
根粒菌と共生できる植物、多くはマメ科の植物は、根に共生している根粒菌が、空気中、土中の窒素ガス(N2)をアンモニア態まで変換した窒素を受け取り、やはりグルタミン合成酵素によって、グルタミンに変えられ、酵素によって、さらにグルタミン酸に変換されると聞きます。マメ科の植物の場合、硝酸態、亜硝酸態の窒素過程は経ず、根粒菌によって、N2からアンモニア態まで変換されてしまうようですね。
マメ科の植物の場合も、出来上がったグルタミン酸から、アミノ酸転移酵素によて、他のアミノ酸(セレノシステインやピロリジンは合成できないとは思いますが)も合成するのでしょうか?
jepenses様

 質問コーナーへようこ。歓迎いたします。質問者の方はメールアドレスとハンドルネームからDescartes のファンの方か、Sophie Daumier のシャンソンが好きな方なのかなどと想像をめぐらしてしまいます。植物窒素代謝への関心とはどう結びつくのか分かりませんが、詳しいことまで勉強なさっておられるので感心しました。
 さて、ご質問の件ですが、タイトルは「植物のアミノ酸合成について」とされる方がより適切かもしれませんね。最初に記述されているグルタミン酸ができるまでの過程についての理解はおおよそそれで間違ってはいません。植物おける窒素代謝は複雑ですし、種によっても一様でない所もありますので、詳細に触れないでここでは教科書的に概説しますから、それによって判断していただければよろしいかと思います。ご質問ではグルタミン酸のアミノ基がアミノ基転移酵素の働きで次々と転移して他のアミノ酸が合成されるようにイメージされているようですが、それだと違います。植物におけるアミノ酸の合成は大きく分けて5つの化合物(解糖系とTCA回路の中間物質)をもとにおこなわれます。解糖系の3−ホスグリセリン酸からはセリンがつくられ、セリンからグリシンとシステイン(硫黄を含む)が別々に出来ます。ピルビン酸からはアラニンそして別にバリンとロイシンが合成されます。TCA回路のα–ケトグルタール酸からはグルタミン酸を経由してプロリンが合成されます。また、グルタミン→ヒスチジンと、オルニチンを経てアルギニンが合成されます。同じくオキサロ酢酸からはアスパラギン酸→アスパラギン、また別々のいくつかの反応ステップでリシンやトレオニン→イソロイシンができます。また、トレオニンが出来る前の前駆物質からはシステインが加わって、最後にメチオニンがつくられます。芳香族環を持つアミノ酸であるトリプトファン、チロシン、フェニルアラニンは解糖系のホスホエノールピルビン酸にエリスロースー4−リン酸(4炭糖リン酸)が加わってシキミ酸が合成され、それから夫々に合成されて行きます。一般の植物では根で吸収された硝酸態窒素はアンモニアまで還元されてグルタミン、グルタミン酸を合成し、そこから他のアミノ酸合成に使われるし、硝酸態のまま葉等の合成が盛んな器官に輸送されてそこで同様にアミノ酸合成に使われます。また、根で出来たグルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギンの4つのアミノ酸はアミノ基の輸送体となって他の器官へ輸送され、各種アミノ酸の合成などに使われます。マメ科植物では根粒菌によって窒素固定されて出来たアンモニアから合成されるアミノ基輸送体が他の器官に輸送されます。 
 なお、セレノシステインはシステインの硫黄がセレンで置き換わったものですが、私の知る限り、植物とカビには合成酵素がないようです。ピロリジンはニンジンやタバコなどに存在しますが、それ自体アミノ酸ではありません。ピロリヂンはプロリンの骨格を成す構造で、ニコチンなどのアルカロイドの基本骨格でもあります
 マメ科植物も根から窒素肥料を吸収することはできますし、それからアミノ酸も作ることができます。マメ科植物の特徴は窒素肥料が少ないところでも生育できると言うことです。根粒菌がなくても窒素肥料を与えれば一般の植物のように生長できます

JSPPサイエンス・アドバイザー
勝見 允行
回答日:2013-10-17